2018年11月4日日曜日

レトロなタイプライター Olivetti Lettera 35 がやってきた!

オリベッティのタイプライターといえば、ワープロが普及する前の1970年代まで、欧文タイプライターのフラッグシップ的存在であった。デザインは、建築家でありデザイナーのマリオ・ベリーニが担当し、雑誌広告のクリエイティブワークもハイセンスで、カッシーナやアルフレックスなどの家具と並んで、世界のプロダクトデザインをリードする存在だった。

欧文タイプライターは、日本では漢字変換などの問題から一般には普及せず、欧文でやりとりを行う一部の業種でのみ使われていた道具だ。どうしても日本語が必要な場合は、印刷屋の業務用機械でタイプ印刷するか、写植を使って印刷しなければならず、ワープロが登場するまでは、ほんとうに不便な時代だったといえるだろう。


持ち歩きが可能なポータブルタイプライター



今回紹介する Lettera 35 は、持ち運びが可能なポータブル設計で、デスクトップ専用機と比べるとコンパクトなデザインとなっている。発売は1972年で、デザインはマリオ・ベリーニが担当。

金属製の筐体はとても頑丈に作られており、丈夫なプラスティックケースに入れると7.1kgにも達する重量を考えると、日常的に持って歩くのではなく、広い部屋の中などでワーキングスペースを自由に移動して使うために設計されているように思う。

それはそうとこのデザイン、何かに似ているなと思ったら、Macintosh が発売される前の黎明期のパソコン、Apple II がそれである。タイプライターとしては後期にあたる Lettera 35 と、パソコンの市場を切り開いた Apple II 、その両者の共通点とは・・・。

あの Apple II の原型は、この Lettera 35 にあった?


Apple II は、Lettera 35 から遅れること5年後の1977年に発売された、世界で初めて一般ユーザー向けに完成品として生産販売されたパーソナルコンピュータである。
専門の技術者向けではなく、一般の愛好家でも使えるコンピュータとして開発され、総計500万台も売れるヒット商品となった。

Apple II の形状は、本体とキーボードが一体化しており、その原型となったのはオリベッティのポータブルタイプライターであることは間違いないだろう。なかでも、キーボードの段差が少なく平坦な筐体の Lettera 35 をイメージしてデザインされたのではないかと推測するのだが、いかがだろうか。

MoMAのパーマネントコレクションの Olivveti がたったの100円?


Olivettiのタイプライターは、プロダクトデザインの美しさから、ニューヨークの近代美術館にパーマネントコレクションとして所蔵されている。

実物を触ってみると、キーボードのタッチフィーリングとタイプアームの精密な動作、ローラーの動きが指先から伝わってくるフィーリングなど、どれをとっても操作感が素晴らしく、道具としての質の高さに感動させられる。

この、芸術品のような製品が専用ケース付きでオークションに100円出品されていたので試しに入札してみると、なんとそのまま落札されてしまった。長い間、ケースに入れて保管されていたらしく状態は良好。各操作部の動きも快調で、リボンを取り替えればまだ実用として使えそうである。

これからのタイプライターの使い道とはなんだろうか?


キーボードの配列は、パソコンと共通のため、違和感無く使うことができる。ということは、子どもがパソコンのキーボードに慣れるために、アルファベットで文字を打つ練習をするのにちょうど良い教材になるのではないだろうか。

文字を打つとは、こういうことなのだということが視覚的に理解できるし、スペルを間違えないようにキーボードを打つ練習にもなる。電卓があるのにそろばん塾が残っているのと同様、タイプライターは子どものキーボードアレルギーを克服する良い教材となることだろう。

2018年10月2日火曜日

秋の夜長にぐっすりと眠れる安眠装置『虹色の雲』をつくった!

秋の夜長は、どうやって過ごすのがいいだろうか。暑かった夏の疲れを癒やすなら、風呂上がりに心身ともにリラックスできる音楽を小音量で聴きながら、ゆっくりと仰向けになって空を眺めるのがいいだろう。

しかし、庭やバルコニーにハンモックや折りたたみベッドなどがあれば良いのだが、そうした環境がなくても体験できる方法はないだろうか? そこで、秋の夜長にBGMを聴きながらぐっすりと眠れる「安眠装置」をつくってみた。

この安眠装置は、壊れたオーディオ用のアンプ基板と発光ダイオードのLEDでできている。アンプ基板を捨ててしまうのが忍びなくて、なにか他の機能を持たせてリバースさせてやろうと、すこし前から考えていた。

コンピュータのロジックボードなどのこうした電子基板を、都市の鳥瞰風景になぞらえたアート作品は過去にも存在したのではないだろうか。電子基板上のプリント回路は道、コンデンサーは高層ビル、半導体は一軒家、抵抗は煙突、心臓部となるICはさしずめ町役場といったところであろうか。
今回は、ベースとなる電子基板の数カ所に穴を開けてLEDランプを差し込んで発光させることにした。この発光ダイオードはRGBの三原色を合成して、1670万色ものカラーバリエーションからランダムに色を変化させるもので、ランプひとつひとつが変幻自在に色を変えていくプログラムが繰り返されるようになっている。

この装置だけを見たなら、なぜ「安眠装置」なのか意味がわからないだろう。しかし、この装置にはもうひとつしかけがあって、発光ダイオードの光を天井に照らすと、「虹色の雲」(彩雲)のような淡い光をゆっくりと映し出すのである。「虹色の雲」は、変幻自在に色とかたちを変えながら、まるで生き物のように現れては消えていく。百聞は一見にしかずというわけで、まずは下の動画をクリックして再生してみてほしい。
夜、眠りにつく前にプログレッシブ・ロックを聴きながら、この装置が映し出す「虹色の雲」を眺めていると、数分後にはいつの間にか熟睡してしまう経験を何度もした。淡い雲のようなランダムな光がもたらすヒーリング効果で、何とも言えない心地良い感覚が脳内に行き渡り、気がついたときにはすでに夢の中にいるのである。この装置には、このような体験から『RAINBOW CLOUD 虹色の雲』と名付けた。さて、今夜は何の夢を見させてもらおうか。

2018年9月29日土曜日

テープの切れたカセットに永遠の命を吹きむアートをつくった!

1960年代前半生まれの世代にとって、自分専用のラジカセを持つことは夢だった。わたしがはじめて手にしたラジカセは、中学時代の夏休みにアルバイトして買ったナショナルのマックFF(RQ448)という機種で、定価は34,800円だったと記憶している。当時のこの価格は大金(大卒初任給の約半額)で、毎週日曜日に秋葉原へ通ってラジカセの雄姿を拝みに行っていたのを思い出す。もちろんカタログは穴があくほど眺めていたのでスペックはすべて頭に入っていた。重量は3.6kg、単2電池4本使用、3バンドラジオ、なかでもマックFFは着脱可能なワイヤレスマイク付きというのが最大の売りだった。

それから5年後の1979年に初代ウォークマンが発売されると、ラジカセの時代は終わってミニコンポが主流の時代となる。その後、カセットテープはMDにその座を譲り、さらにiPodなどの携帯音楽プレーヤーの登場で記録媒体は姿を消し、音楽はダウンロードして聴くものへと変わっていった。このように、めまぐるしく変化してきた音楽鑑賞ライフだが、最近ではふたたびアナログレコードが人気を呼び、さらに温かみのある音質が受けてカセットテープも人気が再燃し、品質の高かった初期のカセットテープにいたっては、そのレトロなデザインも含めて評価が高まり、1本数千円で取り引きされるものまで現れるほどのブームとなっている。
自分の手元にも年代物のカセットテープが何本かあったので、そのいくつかをテープレコーダーで再生していたところ、テープが再生ヘッドにからまり、テープを切らなければ取り出せなくなくなってしまった。この、こわれてしまったカセットテープに永遠の命を吹き込むために、回転するカセットの姿を眺めるための標本装置をつくることにした。ケースのなかのカセットテープが箱の中で勝手に動いている・・・そんなイメージを実現するために、箱の裏側に電池で動くDCモーターと、速度可変式のコントローラーを設けた。
しかし、DCモーターの回転速度が早すぎてなかなか低速回転を実現することができない。考えてみれば、テープレコーダーはたくさんのギアを連結させるなど、複雑な機械じかけであの回転速度を実現していたわけで、一筋縄ではいかない、いや、いっては困るのである。そこで、海外から特殊な減速機付きのDCモーターを輸入して、20RPMというカセットの再生状態に近い速度を実現した。いつの間にか構想から完成までに2カ月以上もかかるという長期プロジェクトになっていた。以下に、実際に回転している様子を動画にしたので、ぜひその様子を再生してみてほしい。
世界中のデジタルデータ量が爆発的に増加していくなか、大容量の情報記録装置としてテープストレージがふたたび注目されている。バックアップ用途に加えて長期的な記録・保管としてのアーカイブ用途にも低価格で高品質な磁気テープの活用が期待されているのだ。そんな磁気テープの可能性も見据えて、ケースは空、カセットテープのまわりの綿は雲に喩えて、この作品には『クラウドテープ』と名付けた。

2018年9月25日火曜日

USBで充電可能なBluetoothスピーカー『CAN SPEAK』が完成!

空き缶を使ったアクティブタイプのスピーカーが完成した。今までつくってきた缶スピーカーは、アンプにつないで音を出すパッシブタイプだったが、今回のスピーカーは内部にアンプを搭載しているのでそのままの状態で音が出るしくみだ。アンプの出力はひとつなのでスピーカーもひとつ、つまりモノラルで音楽を聴く方式である。

電源はUSBから供給でき、リチウム充電池を内蔵しているので充電すればポータブル・スピーカーとして使うことができる。トップには、5.5cmのフルレンジスピーカーユニットを配し、ボトムには同じく5.5cmのパッシブラジエーターを備えることで、高域から低域まで過不足のないハイファイサウンドを楽しむことができるようになっている。

また、Bluetoothを内蔵しているのでスマホやタブレット、パソコンから音源を飛ばして音楽を再生できるしくみだ。最近の若年層リスナーの間では「ステレオはヘッドホン、部屋ではスマートスピーカーを使ってモノラルで音楽を聴く」というスタイルが増えている。今回開発したスピーカーは、こうした現代的なニーズに応えたものだ。
スピーカーの筐体には、キャンベル・スープ缶を使っている。テーブルの上に置いて音楽を聴くと、そのポップアート的なデザインテイストと透明感のある音が溶けあって、まわりの空気を新鮮にしてくれる。単なるスピーカーを超えたサウンドスカルプチャーのような効果をもたらすのである。

キャンベル・スープに限らず、こうした空き缶は食べ終わったら捨てられてしまう運命にある。『CAN SPEAK』には、こうした廃材を捨てずに別の道具としてリバースさせたいという、環境に配慮していく意志も込められているのだ。
最後に、実際に音楽を流している動画をアップしたので、興味のある方は再生してみてほしい。小さなドラム缶から出てくる音は、繊細で伸びやかな高域と、弾力感のある低域が特徴だ。表面と裏面に同じサイズのスピーカーユニットとパッシブラジエーターを備えているため、楽器のドラムと同じように音が響いてくるのがこの動画からも伝わるだろう。

2018年9月21日金曜日

秋葉原ラジオセンター2Fの346ショーケースの継続が決定!

秋葉原のラジオセンター2Fにオープンしたモノフォニカのショーケース『monophonica AKB346』を10月20日(土)まで1カ月間延長することに決めました。

ショーケースでは、オリジナル設計のスピーカーを中心に展示販売しております。
どれも、このブログで紹介している、自信をもっておすすめできる作品ばかりです。

ハンドメイドですので、他の店では絶対に買えない秘蔵の品から選りすぐったものだけを並べました。実物を見てみたい方は、ぜひ一度ショーケースにお越しください。
他のショーケースにも、興味深い商品がたくさん展示されており、眺めているだけでも楽しくて、あっという間に時間が経ってしまいます。(できれば、眺めるだけではなく、買っていただけるとうれしいです 笑)

今後は、当方でセレクトした雑貨なども加えていく予定です。 どこでも買えるようなものではなく、オンリーワンのショーケースを目指して、ますますパワーアップしていきたいと思いますので、引き続き『monophonica AKB346』をご愛顧のほど、よろしくお願いいたします。

2018年9月14日金曜日

ミッキーマウスの『サウンドトランク』第2弾をつくった!


ミッキーマウスとそのパートナーのミニーマウスが表裏にデザインされたブリキのケースを入手した。もともとはディズニーにライセンス料を払って森永が販売していたもので、お菓子を詰め合わせて子供向けに売っていたものらしい。

このアイテムにはいくつかヴァージョンがあって、裏面がミッキーの後頭部になっているものもある。お菓子を食べ終わったあとは、ランチボックスやおもちゃ入れとして使えるようになっている。

さて、今回はこのブリキのケースを使った『サウンドトランク』をつくってみようと思う。

ケースの片側にはミニーマウスがデザインされているので、ミッキーの耳にはスピーカーユニット、ミニーの耳にはパッシブラジエーターを組み込んでみようと思いついた。

スピーカーユニットには、3.4cmのアルミコーンを使ったフルレンジを2個、パッシブラジエーターには2.8cmのものを2個使った。

耳のサイズを考慮すると、このように小型のスピーカーユニットになってしまうのは仕方のないところである。

ところでこのケース、なぜかミッキーの側のみエンボス加工されており、すこし立体的になっている。どうせなら両方とも同じ仕様ならいいのにと思うのだが、なぜこうなったのだろうか。

さて、それぞれの耳にスピーカーユニットとパッシブラジエーターに合う穴を開けるのだが、今回は自由錐を使って作業を行うことにした。大きさに合わせて自由に穴のサイズを調整できるのが自由錐の良いところだが、今回のように表面が印刷された素材の場合、すこし刃がそれただけで傷をつけてしまう恐れがあるので注意が必要だ。

わたしの場合、きれいに開けられたのは最初の1個のみで、残り3個には刃で引っ掻いたような傷をつけてしまった。

付いてしまった傷は仕方がないので、最後に目立たないようにタッチペイントするつもりだ。すべての穴が開いたので、スピーカーユニットとパッシブラジエーターを合わせてみると、サイズはぴったりと収まった。空気漏れを防ぐためにブリキとの接着にはシリコンを使用している。

ここまでくれば、あとはアンプを取り付けて配線するだけなのだが、ほかの作業が立て込んでおり、完成までに1ヶ月半ほどかかってしまった。

アンプと電源を取り付けて音を出してみると、勢いよく元気な明るい音が飛び出してきた。パッシブラジエーターは音量を上げていくにつれて効果がはっきりとわかり、ケース全体が振動しているのが伝わってくる。

完成したミッキーマウスの『サウンドトランク』をもって、保育園へ年長の息子を迎えに行ったところ、これを見て子どもたちが集まってきた。ボリュームを回すと音が大きくなるのが楽しいのか、みな目を輝かせながら触ってくれた。

週末には、これにサンドイッチを入れて子どもと公園へピクニックに出かけてみようと思う。ランチョンマットもミッキーマウスのものがあると良いかもしれない(笑)

東京ディズニーリゾートでかかっているような、ラグタイムをはじめとした古き良きアメリカの大衆音楽をこれで聴くのも良さそうだ。

2018年9月9日日曜日

SPAMの缶を使ったスピーカー『CAN SPEAK』をつくった!

スパムの缶は好きなデザインである。濃いブルーに黄色のSPAMの文字が鮮やかで、スパムバーガーの写真もおいしそうだ。この他、スパムむすびの写真をプリントしたものもあるが、それらのデザインに共通するのは、食欲をそそるシズルの訴求に徹している点だ。

このスパム缶を使ったスピーカーをつくってみたいと少し前から思っていた。形状的には、長方形のスピーカーユニットが合いそうだ。そこで F0080900 というスピーカーユニットを上からはめてみると、なんとか収まりそうである。

問題はスピーカーユニットのフランジと缶の開口部分にできる隙間をどうやって埋めるかだ。シリコンで埋めるには隙間が大きすぎる。そこで柔軟なゴム素材を間にはさむことを思いついた。

缶の切り口にコニシのG17を塗り、丸いゴムを円環上に這わせるとうまく接着できた。ちなみにG17は乾燥しても固くならないゴムと親和性の高いボンドである。

 F0080900 は4Ωに10Wと高耐入力なので、ハイパワー駆動が可能なのだが、ゴム素材をはさんでしまうと肝心のエッジの振動を吸収してしまう恐れもある。実際の音はどうなのだろうか?

今回はスピーカーユニットを埋め込む方式にしたので、ハンダでケーブル配線してからバナナ端子を取り付けた。缶は電気を通す材質のため、接合部は絶縁する必要がある。きちんと絶縁しないと(L)−と(R)+が交じりあって音が出ないのだ。

配線を終えて音を出してみると、やや低音がたりない印象はあるが、なかなか素直で澄んだ音である。ゴム素材とフランジの間にあるわずかな隙間と、フランジのネジ穴から空気が漏れているため、ここにはシリコンを充填して密閉することにした。さて、音はどう変わるだろうか? 

右の写真はシリコンでネジ穴を埋めた状態だ。このために、黒いシリコンシーラントを調達してきた。露出する部分なので色合わせは重要だ。

音を出してみると、あきらかに低音の響きが増しているのがわかった。缶全体に音が響いてブンブン振動している。弦楽四重奏では、しなやかに澄んだ音が心地良く響く。このしなやかさは、缶とフランジの間にはさんだゴム素材の影響かもしれない。

フランジとバッフルの間に、共振や空気漏れ防止の目的でゴムやウレタンをはさむのは昔から行われてきた方法である。今回は、空気漏れ防止のためにゴムとシリコンを使ったが、結果は良い方向へ転んだようだ。

2018年9月7日金曜日

プリウォーの Gibson L-1(1931年製 )が奇跡的に蘇った話

わたしは、Gibson のヴィンテージスモールを3本持っていた。1929年製と1931年製のL-1、そして1930年代のL-00の3本である。このうち、1931年製のL-1は、13.5インチから14.75インチにサイズアップし、フレットは12フレットジョイントのままという過渡期のモデルで、しかもロゴは The Gibson から Gibson へと移り変わっている(本来ならThe Gibson)という、非常に珍しい1本だった。

このL-1は、左の写真を見れば分かるように、トップが素人の手によってサンバースト塗装された状態で、サイドやバックにも割れを補修した痕がはっきるとわかるという、お世辞にもきれいとはいえない状態だった。

入手したのは、今から3年半ほど前で、2002年製のカスタムショップ製のL-1と交換で入手したものだ。とにかく、外観がこの状態なので、プロジェクト(修理)用に入手したのだが、手元に置いてみるとこれはこれで味があるのと音も気に入ったので、そのまま手を付けずに時間が経ってしまっていたといういわく付きの代物だ。
前のオーナーによれば、このギターはL-0もしくはL-1の1931年製とのことだったが、もしもL-0ならトップはマホガニーのはずである。このギターのトップは木目から判断してスプルースで、1932年に14フレットジョイントへと変わる直前のL-1にほぼ間違いないだろうことは手元にきてからわかった。

トップの塗装を剥いでいけば、すべては判明することで、剥いだ塗装の上からタンポ塗りでオリジナルと同じステインシェイデッド仕上げにする予定だったのだが、夏の旅行費用を捻出するために、止むを得ずオークションに出品したところ、その翌日には希望額で落札されていた。
落札者のEさんとは、取引連絡の段階で意気投合し、少しでもサービスしたい気持ちもあったのでギターは直接届けることに。

この L-1 だが、左の写真であきらかなように、gibson のスクリプトロゴが半分消えかかっている。上部の山がV字にカットされ、トラスロッドが入っていることからも、Kalamazoo などの廉価品ではなく正真正銘の Gibson プリウォーに間違いない。

ペグは最近のもの(恐らくGoto製)に交換されているので、オープンバックの復刻品に交換すれば、さらにヴィンテージ感が増しそうだ。これから下の写真は、Eさん自らがリペアしている過程の写真である。修理の一部始終をメールと写真で報告していただいたのだが、御本人の許可を得て、その一部をすこしだけ紹介したいと思う。

右の写真は、上塗りされたサンバースト塗装を剥がし終えたところ。タンポ染めされたオリジナルのステインの地が出てきている。そして、下の写真がすべての塗装をほぼ剥がし終えた状態。ステインは、染料であり木の奥まで染み込んでいるため、完全に落とすことはできない。
写真で見た感じでは、かなり濃い目のウォールナットで、これはロバート・ジョンソンが使っていた L-1 に近い色ではないかと思われる。

Eさんとも話したのだが、プリウォーの Gibson の音が素晴らしいのは、木が乾燥していることもあるのだが、もっとも大きな理由は、現在では考えられないほどの良い材料をふんだんに使って作られている点だろう。これは、本物を弾いた者にしかわからない真実であると確信している。
木の乾燥だけであれば、再塗装されたヴィンテージの音は、高額で売られているカスタムメイドの新品の L-1 と同等かそれに近い音になるはずだ。

さて、今回のレストアされた L-1 はどうだろうか? ちなみに今回の L-1 だが、修復されたのはトップだけでなく、トップ裏のブレーシングから内部のライニングにいたるまで、また、指板の減りをハカランダで埋めたり、トップ浮きをフラットに戻したりと、フルレストアといえるほどの大がかりなものだ。
まず、これほどのレストアを請け負ってくれる業者はいないだろう。あまりにリスキーであり、失敗した場合の損害を考えるとやりたがらないのは当然である。仮にいたとしても、相当な金額となってしまうのは間違いない。

左の写真は、ほぼフルレストアが済んだ状態の L-1 である。トップの塗装は、オリジナルと同じようにステインシェイデッド仕上げされており、バックはオリジナルよりも良いヴィンテージのジャマイカン・マホガニーという良材を極力薄くスライスしたものに交換されている。

さて、フルレストアされた L-1 の雄姿を見ると、まるでカスタムメイドの復刻品のようなのだが、音を出してみて驚嘆した。どんなに高額なカスタムメイドでも、まったく比較にならないほどのボリュームである。しかもなんともブルージーで良い音なのだ。見た目はもちろんだが、音の方もお譲りする前の状態をはるかに超えた仕上がりで感動した。取材やブログ掲載にも快くOKしていただいたEさんの素晴らしい仕事ぶりに対して、心からの賛辞をお送りしたい。もっとも喜んでいるのは、このL-1自身であろう。そのGibson愛よあっぱれ、そしてL-1プリウォーよ万歳!

2018年8月26日日曜日

徳利を使ったスピーカー『とっくりすぴか』をつくってみた!

日本酒を入れる器として、江戸時代後期に普及した徳利と猪口は、いつしか和の象徴となり、酒好きな外国人観光客のお土産にも人気なのだという。

酒をそそぐときの「トクッ トクッ」という独特の音がなんとも風流で、飲む量も徳利(お銚子)1本で1合、2合という具合にわかりやすく、鍋でそのまま温められるのも便利だ。この理にかなった作りが、長らく愛されてきた理由ではないだろうか。

今回は、この徳利を使ったスピーカーをつくってみようと思う。使用したのは、「Supreme」の『Sake Set』で採用された徳利と同じデザインで、清酒 「松竹梅」のロゴが印刷されているもの。2合サイズとしては、定番のかたちのものだ。

この徳利の特徴は、胴体部分が長く注ぎ口がラッパ状になっている点で、この形状をスピーカーにいかせれば、音道(首)で音(空気)を加圧させ、勢いよく空気室へ送りこまれた音が反射してふたたび首を通ることで再度増幅されるという、ダブルバスレフ効果が期待できそうだ。

注ぎ口にスピーカーユニットをシリコンで逆向きに固定することで、増幅された音はラッパの形状に沿ってスピーカーユニットのコーン(膜)から外に広がる構造だ。密閉式スピーカーではあるが、コルクを使った空気銃のように空圧を効率的に利用して音を出すのが特徴である。

スピーカーユニットには、38.5mmのフルレンジでインピーダンス4Ω、最大入力6Wのものを使った。徳利の注ぎ口にジャストフィットするサイズである。コーンは紙だが、エッジには高耐久ゴムが使われておりつくりも堅牢でずっしりとした重さもある。

スピーカーユニットを逆さにセットして音を聴いてみると、背面からも過不足なく高域が出ており、ラッパ型の噴射口から排出される低域の反応も良く、バランスの良い澄んだ音という印象だ。徳利の底面は、燗酒が冷めるのを防ぐためにドーム型に凹んでおり、内部に半球が突き出るかたちとなるが、ここからはね返った音がラッパから排出されるしくみだ。

陶器を使ったスピーカーの響きが自然なのは、この記事にも書いたとおりだ。セラミックという素材は、人の温もりのような柔らかさを感じさせる性質を持っており、スピーカーの材料として、もっと注目されてもよい素材ではないだろうか。

徳利に水を注いでいくと、たまった水がラッパのかたちに沿って勢いよく噴出されるのがわかる。音もこの水と同じように円環状に放射されるはずで、フレームのスリットから全方位に向けて音が広がる構造だ。
大きいほうがスピカA、小さい方がスピカB
おとめ座で最も明るい恒星のかたちは、徳利によく似ている。

この徳利スピーカーの名称は、『とっくりすぴか』に決めた。「スピカ」とは、春の夜に青白く輝く、おとめ座で最も明るい恒星のこと。

天体望遠鏡で見ると、AとBのペアで構成されており、大きいほうがスピカA、小さいほうがスピカBと呼ばれている。スピカAが太陽の8倍、スピカBが太陽の4倍の大きさを誇る大きな恒星で、このスピカの全体像が雪だるまのようであり、徳利にもよく似ているのだ。

このスピーカーで何を聴くかだが、もっとも似合うのが民謡だ。見た目のイメージにぴったりで、これで民謡を聴きながら日本酒を飲み、そばを食べるのもなかなか乙かもしれない。

2018年8月22日水曜日

秋葉原ラジセン2Fのショーケース『monophonica AKB346』

今朝、青山を散歩していたら、AOYAMA 346というデザイン会社が入居するオフィスビルを偶然見つけた。346というのはなんとなく語呂がいい。青山通りの国道246と末尾2桁が同じで、日本語でサンシロー(三四郎)と読めるので覚えやすい。

昨日、秋葉原のラジオセンター2Fにオープンしたモノフォニカのショーケース番号も 346 だったのは何かの因縁なのだろうか。
ちなみに、モノフォニカは年内に青山の隣町である赤坂のマンションへ引っ越して念願の工房をもつ予定なのだが、その住所を調べてみると・・・末尾の2桁がナント!46号。偶然にしてはできすぎているようだが、すべて本当の話だ。

こんなシンクロニシティーに気を良くしたこともあり、秋葉原のショーケースにも名前を付けたいと思いたち、すぐ浮かんできたのが AKB346 というネーミングだった。

AKBが秋葉原の略称なのは周知の通りだが、予定している工房の住所は赤坂。大人の秘密基地を目指して名称は『赤坂ベース』にする予定なのだが、AKBはその略称にもなる。

そんなこんなで、秋葉原ラジオセンター2Fのショーケースは『monophonica AKB346』(346=ケース番号)と名付けることに決めた。AKBとは、AKASAKA BASE の略であり、世界の AKIHABARA の略でもある。 引越し先となる新しい住所の末尾は46。そして『乃木坂46』で有名な乃木坂があるのは港区赤坂。46という数字がなにやらミステリーめいてきた。

2018年8月21日火曜日

秋葉原のラジオセンター2F 山本無線 E-BOXにて展示スタート!

いよいよ、秋葉原のラジオセンター2F 山本無線 E-BOX 346 ショーケースにて、自作オーディオの展示販売が始まった。

この E-BOX にはこだわりがあって、フィギュアの展示は原則禁止されている。

出品者のカラーが色濃く反映されていて、古い真空管ラジオから最近人気のラジカセ、フィルムカメラ、自作の真空管アンプ、ミニカー、鉄道模型などなど、ショーケース一つひとつがまるで個人の小さな部屋のようになっており、それらの部屋を覗いているようなワクワクした気分にさせてくれるスペースである。

今年で平成も終わりという時代の趨勢を生きるなか、このスペースには昭和が今も息づいている。ラジオセンターの通路に入っていくと、2階へと続く階段があり、その踊り場には「元電気少年達集まれ!」のコルトン看板が。まるで昭和への階段を登るような気分にさせてくれて気分が高揚する。

我がショーケースは、この階段を登った正面にある E-BOX の中に入って右奥の 346 番にある。

男性の目線にはちょうど良い高さにあるので、順番にショーケースを見ていけば見つかるはずだ。目印は赤と白のキャンベル・スープ缶(笑)。

約40センチ角のショーケースに、オリジナルデザインのスピーカーや自作ケース付きのアンプをいっぱいに詰め込んだ。

¥6,800〜¥19,800まで、合計8点の作品が展示されている。すべて、可愛い我が子のようなものばかり。ぜひ、この機会に実物を見たうえで、世界で唯一のハンドメイド品をGETしてみてはいかがだろう。

2018年8月20日月曜日

秋葉原ラジオセンター2F 山本無線 E-BOX にて展示販売決定!

2018年8/21(火)から9/20(木)の1カ月間に渡って、秋葉原のラジオセンター2Fの山本無線 E-BOXにて、モノフォニカのショーケースを設置する運びとなりました。


ラジオセンターといえば、戦後日本の電気産業復興の礎となった記念すべき場所。その同じ敷地内にショーケースを持てることに対して、大きな喜びと興奮を感じずにはおれません。

ショーケースでは、自作スピーカーやウッドケース付きのアンプ、Bluetooth完全対応のアンプ内蔵スピーカーなどを展示販売する予定です。
秋葉原にお越しの際は、ぜひラジオセンター2Fの山本無線 E-BOX、346ショーケースにお立ち寄りください!

■出品予定
『77CUBE』
『77CUBE II』
『CAN SPEAK キャンベル TYPE A』
『CAN SPEAK キャンベル TYPE B』
『SOUND KETTLE』
『Lepai LP-2020A+ ウッドケース付き』
『Lepy LP-V3S ウッドケース付き』

2018年8月17日金曜日

キャンベル・スープ缶を使った『CAN SPEAK 』の第5弾が完成!

キャンベル・スープの空き缶を使った『CAN SPEAK』の第5弾ができた。キャンベル・スープ缶は、その普遍的なデザインが美しく、並べておくだけでポップアートのようになってしまうパッケージが大きな魅力だ。

日本では、紀伊国屋や明治屋といった在外国人向けの輸入食品スーパーに行かないとなかなか買えなかったが、最近ではすこし大きめのスーパーへ行けばどこでも手に入るようになった。これは、アンディ・ウォーホルの版画が広告塔として寄与していることと決して無縁ではないだろう。

前回のキャンベル・スピーカーは、6cmフルレンジのスピーカーユニットの正面を缶の上面に取り付け、底面には4cmのパッシブラジエーターを取り付けて低音を増強、さらにスピーカー上面には頑丈なグリルを設置し、その中央にスチール球をのせることで、音を360°水平に拡散するという非常に凝ったつくりだった。

しかし、今回は初代『CAN SPEAK』の意志を引き継ぎ、ドラム缶内を音がリング状に伝わる性質を生かし、その音を底面でリバウンドさせてふたたびリング状にはね返ってきた音をスピーカーユニットのコーン(膜)を通して放出するという、リングリバウンド方式を取り入れた。

初代『CAN SPEAK』では、高域が減衰して音がこもる傾向があったのだが、今回はどうだったかというと、高域が減衰することでかえってバランスのとれた自然な音となって空間に広がるという、非常に良い結果がもたらされた。

これには正直、面食らってしまった。その素直で聴き疲れしない音は、これ以上何も付け足す必要がないと思わせるに十分な音である。

音がこもる原因は、リングリバウンド方式という構造によるものではなく、使用するスピーカーユニットの特性によるものだということが今回の試作でわかった。

初代『CAN SPEAK』で使っていたスピーカーユニットでは、十分な高域を背面から再生することができなかったのだが、今回のユニットの場合、スピーカーの向きが逆のほうがバランスのとれた音になるのだ。高域に特化したフルレンジであれば、リングリバウンド方式にうまく適合させることができる。これは新たな発見であり大きな収穫でもあった。『CAN SPEAK』との道のりは、まだまだ長くなりそうだ。