2018年9月29日土曜日

テープの切れたカセットに永遠の命を吹きむアートをつくった!

1960年代前半生まれの世代にとって、自分専用のラジカセを持つことは夢だった。わたしがはじめて手にしたラジカセは、中学時代の夏休みにアルバイトして買ったナショナルのマックFF(RQ448)という機種で、定価は34,800円だったと記憶している。当時のこの価格は大金(大卒初任給の約半額)で、毎週日曜日に秋葉原へ通ってラジカセの雄姿を拝みに行っていたのを思い出す。もちろんカタログは穴があくほど眺めていたのでスペックはすべて頭に入っていた。重量は3.6kg、単2電池4本使用、3バンドラジオ、なかでもマックFFは着脱可能なワイヤレスマイク付きというのが最大の売りだった。

それから5年後の1979年に初代ウォークマンが発売されると、ラジカセの時代は終わってミニコンポが主流の時代となる。その後、カセットテープはMDにその座を譲り、さらにiPodなどの携帯音楽プレーヤーの登場で記録媒体は姿を消し、音楽はダウンロードして聴くものへと変わっていった。このように、めまぐるしく変化してきた音楽鑑賞ライフだが、最近ではふたたびアナログレコードが人気を呼び、さらに温かみのある音質が受けてカセットテープも人気が再燃し、品質の高かった初期のカセットテープにいたっては、そのレトロなデザインも含めて評価が高まり、1本数千円で取り引きされるものまで現れるほどのブームとなっている。
自分の手元にも年代物のカセットテープが何本かあったので、そのいくつかをテープレコーダーで再生していたところ、テープが再生ヘッドにからまり、テープを切らなければ取り出せなくなくなってしまった。この、こわれてしまったカセットテープに永遠の命を吹き込むために、回転するカセットの姿を眺めるための標本装置をつくることにした。ケースのなかのカセットテープが箱の中で勝手に動いている・・・そんなイメージを実現するために、箱の裏側に電池で動くDCモーターと、速度可変式のコントローラーを設けた。
しかし、DCモーターの回転速度が早すぎてなかなか低速回転を実現することができない。考えてみれば、テープレコーダーはたくさんのギアを連結させるなど、複雑な機械じかけであの回転速度を実現していたわけで、一筋縄ではいかない、いや、いっては困るのである。そこで、海外から特殊な減速機付きのDCモーターを輸入して、20RPMというカセットの再生状態に近い速度を実現した。いつの間にか構想から完成までに2カ月以上もかかるという長期プロジェクトになっていた。以下に、実際に回転している様子を動画にしたので、ぜひその様子を再生してみてほしい。
世界中のデジタルデータ量が爆発的に増加していくなか、大容量の情報記録装置としてテープストレージがふたたび注目されている。バックアップ用途に加えて長期的な記録・保管としてのアーカイブ用途にも低価格で高品質な磁気テープの活用が期待されているのだ。そんな磁気テープの可能性も見据えて、ケースは空、カセットテープのまわりの綿は雲に喩えて、この作品には『クラウドテープ』と名付けた。

2018年9月25日火曜日

USBで充電可能なBluetoothスピーカー『CAN SPEAK』が完成!

空き缶を使ったアクティブタイプのスピーカーが完成した。今までつくってきた缶スピーカーは、アンプにつないで音を出すパッシブタイプだったが、今回のスピーカーは内部にアンプを搭載しているのでそのままの状態で音が出るしくみだ。アンプの出力はひとつなのでスピーカーもひとつ、つまりモノラルで音楽を聴く方式である。

電源はUSBから供給でき、リチウム充電池を内蔵しているので充電すればポータブル・スピーカーとして使うことができる。トップには、5.5cmのフルレンジスピーカーユニットを配し、ボトムには同じく5.5cmのパッシブラジエーターを備えることで、高域から低域まで過不足のないハイファイサウンドを楽しむことができるようになっている。

また、Bluetoothを内蔵しているのでスマホやタブレット、パソコンから音源を飛ばして音楽を再生できるしくみだ。最近の若年層リスナーの間では「ステレオはヘッドホン、部屋ではスマートスピーカーを使ってモノラルで音楽を聴く」というスタイルが増えている。今回開発したスピーカーは、こうした現代的なニーズに応えたものだ。
スピーカーの筐体には、キャンベル・スープ缶を使っている。テーブルの上に置いて音楽を聴くと、そのポップアート的なデザインテイストと透明感のある音が溶けあって、まわりの空気を新鮮にしてくれる。単なるスピーカーを超えたサウンドスカルプチャーのような効果をもたらすのである。

キャンベル・スープに限らず、こうした空き缶は食べ終わったら捨てられてしまう運命にある。『CAN SPEAK』には、こうした廃材を捨てずに別の道具としてリバースさせたいという、環境に配慮していく意志も込められているのだ。
最後に、実際に音楽を流している動画をアップしたので、興味のある方は再生してみてほしい。小さなドラム缶から出てくる音は、繊細で伸びやかな高域と、弾力感のある低域が特徴だ。表面と裏面に同じサイズのスピーカーユニットとパッシブラジエーターを備えているため、楽器のドラムと同じように音が響いてくるのがこの動画からも伝わるだろう。

2018年9月21日金曜日

秋葉原ラジオセンター2Fの346ショーケースの継続が決定!

秋葉原のラジオセンター2Fにオープンしたモノフォニカのショーケース『monophonica AKB346』を10月20日(土)まで1カ月間延長することに決めました。

ショーケースでは、オリジナル設計のスピーカーを中心に展示販売しております。
どれも、このブログで紹介している、自信をもっておすすめできる作品ばかりです。

ハンドメイドですので、他の店では絶対に買えない秘蔵の品から選りすぐったものだけを並べました。実物を見てみたい方は、ぜひ一度ショーケースにお越しください。
他のショーケースにも、興味深い商品がたくさん展示されており、眺めているだけでも楽しくて、あっという間に時間が経ってしまいます。(できれば、眺めるだけではなく、買っていただけるとうれしいです 笑)

今後は、当方でセレクトした雑貨なども加えていく予定です。 どこでも買えるようなものではなく、オンリーワンのショーケースを目指して、ますますパワーアップしていきたいと思いますので、引き続き『monophonica AKB346』をご愛顧のほど、よろしくお願いいたします。

2018年9月14日金曜日

ミッキーマウスの『サウンドトランク』第2弾をつくった!


ミッキーマウスとそのパートナーのミニーマウスが表裏にデザインされたブリキのケースを入手した。もともとはディズニーにライセンス料を払って森永が販売していたもので、お菓子を詰め合わせて子供向けに売っていたものらしい。

このアイテムにはいくつかヴァージョンがあって、裏面がミッキーの後頭部になっているものもある。お菓子を食べ終わったあとは、ランチボックスやおもちゃ入れとして使えるようになっている。

さて、今回はこのブリキのケースを使った『サウンドトランク』をつくってみようと思う。

ケースの片側にはミニーマウスがデザインされているので、ミッキーの耳にはスピーカーユニット、ミニーの耳にはパッシブラジエーターを組み込んでみようと思いついた。

スピーカーユニットには、3.4cmのアルミコーンを使ったフルレンジを2個、パッシブラジエーターには2.8cmのものを2個使った。

耳のサイズを考慮すると、このように小型のスピーカーユニットになってしまうのは仕方のないところである。

ところでこのケース、なぜかミッキーの側のみエンボス加工されており、すこし立体的になっている。どうせなら両方とも同じ仕様ならいいのにと思うのだが、なぜこうなったのだろうか。

さて、それぞれの耳にスピーカーユニットとパッシブラジエーターに合う穴を開けるのだが、今回は自由錐を使って作業を行うことにした。大きさに合わせて自由に穴のサイズを調整できるのが自由錐の良いところだが、今回のように表面が印刷された素材の場合、すこし刃がそれただけで傷をつけてしまう恐れがあるので注意が必要だ。

わたしの場合、きれいに開けられたのは最初の1個のみで、残り3個には刃で引っ掻いたような傷をつけてしまった。

付いてしまった傷は仕方がないので、最後に目立たないようにタッチペイントするつもりだ。すべての穴が開いたので、スピーカーユニットとパッシブラジエーターを合わせてみると、サイズはぴったりと収まった。空気漏れを防ぐためにブリキとの接着にはシリコンを使用している。

ここまでくれば、あとはアンプを取り付けて配線するだけなのだが、ほかの作業が立て込んでおり、完成までに1ヶ月半ほどかかってしまった。

アンプと電源を取り付けて音を出してみると、勢いよく元気な明るい音が飛び出してきた。パッシブラジエーターは音量を上げていくにつれて効果がはっきりとわかり、ケース全体が振動しているのが伝わってくる。

完成したミッキーマウスの『サウンドトランク』をもって、保育園へ年長の息子を迎えに行ったところ、これを見て子どもたちが集まってきた。ボリュームを回すと音が大きくなるのが楽しいのか、みな目を輝かせながら触ってくれた。

週末には、これにサンドイッチを入れて子どもと公園へピクニックに出かけてみようと思う。ランチョンマットもミッキーマウスのものがあると良いかもしれない(笑)

東京ディズニーリゾートでかかっているような、ラグタイムをはじめとした古き良きアメリカの大衆音楽をこれで聴くのも良さそうだ。

2018年9月9日日曜日

SPAMの缶を使ったスピーカー『CAN SPEAK』をつくった!

スパムの缶は好きなデザインである。濃いブルーに黄色のSPAMの文字が鮮やかで、スパムバーガーの写真もおいしそうだ。この他、スパムむすびの写真をプリントしたものもあるが、それらのデザインに共通するのは、食欲をそそるシズルの訴求に徹している点だ。

このスパム缶を使ったスピーカーをつくってみたいと少し前から思っていた。形状的には、長方形のスピーカーユニットが合いそうだ。そこで F0080900 というスピーカーユニットを上からはめてみると、なんとか収まりそうである。

問題はスピーカーユニットのフランジと缶の開口部分にできる隙間をどうやって埋めるかだ。シリコンで埋めるには隙間が大きすぎる。そこで柔軟なゴム素材を間にはさむことを思いついた。

缶の切り口にコニシのG17を塗り、丸いゴムを円環上に這わせるとうまく接着できた。ちなみにG17は乾燥しても固くならないゴムと親和性の高いボンドである。

 F0080900 は4Ωに10Wと高耐入力なので、ハイパワー駆動が可能なのだが、ゴム素材をはさんでしまうと肝心のエッジの振動を吸収してしまう恐れもある。実際の音はどうなのだろうか?

今回はスピーカーユニットを埋め込む方式にしたので、ハンダでケーブル配線してからバナナ端子を取り付けた。缶は電気を通す材質のため、接合部は絶縁する必要がある。きちんと絶縁しないと(L)−と(R)+が交じりあって音が出ないのだ。

配線を終えて音を出してみると、やや低音がたりない印象はあるが、なかなか素直で澄んだ音である。ゴム素材とフランジの間にあるわずかな隙間と、フランジのネジ穴から空気が漏れているため、ここにはシリコンを充填して密閉することにした。さて、音はどう変わるだろうか? 

右の写真はシリコンでネジ穴を埋めた状態だ。このために、黒いシリコンシーラントを調達してきた。露出する部分なので色合わせは重要だ。

音を出してみると、あきらかに低音の響きが増しているのがわかった。缶全体に音が響いてブンブン振動している。弦楽四重奏では、しなやかに澄んだ音が心地良く響く。このしなやかさは、缶とフランジの間にはさんだゴム素材の影響かもしれない。

フランジとバッフルの間に、共振や空気漏れ防止の目的でゴムやウレタンをはさむのは昔から行われてきた方法である。今回は、空気漏れ防止のためにゴムとシリコンを使ったが、結果は良い方向へ転んだようだ。

2018年9月7日金曜日

プリウォーの Gibson L-1(1931年製 )が奇跡的に蘇った話

わたしは、Gibson のヴィンテージスモールを3本持っていた。1929年製と1931年製のL-1、そして1930年代のL-00の3本である。このうち、1931年製のL-1は、13.5インチから14.75インチにサイズアップし、フレットは12フレットジョイントのままという過渡期のモデルで、しかもロゴは The Gibson から Gibson へと移り変わっている(本来ならThe Gibson)という、非常に珍しい1本だった。

このL-1は、左の写真を見れば分かるように、トップが素人の手によってサンバースト塗装された状態で、サイドやバックにも割れを補修した痕がはっきるとわかるという、お世辞にもきれいとはいえない状態だった。

入手したのは、今から3年半ほど前で、2002年製のカスタムショップ製のL-1と交換で入手したものだ。とにかく、外観がこの状態なので、プロジェクト(修理)用に入手したのだが、手元に置いてみるとこれはこれで味があるのと音も気に入ったので、そのまま手を付けずに時間が経ってしまっていたといういわく付きの代物だ。
前のオーナーによれば、このギターはL-0もしくはL-1の1931年製とのことだったが、もしもL-0ならトップはマホガニーのはずである。このギターのトップは木目から判断してスプルースで、1932年に14フレットジョイントへと変わる直前のL-1にほぼ間違いないだろうことは手元にきてからわかった。

トップの塗装を剥いでいけば、すべては判明することで、剥いだ塗装の上からタンポ塗りでオリジナルと同じステインシェイデッド仕上げにする予定だったのだが、夏の旅行費用を捻出するために、止むを得ずオークションに出品したところ、その翌日には希望額で落札されていた。
落札者のEさんとは、取引連絡の段階で意気投合し、少しでもサービスしたい気持ちもあったのでギターは直接届けることに。

この L-1 だが、左の写真であきらかなように、gibson のスクリプトロゴが半分消えかかっている。上部の山がV字にカットされ、トラスロッドが入っていることからも、Kalamazoo などの廉価品ではなく正真正銘の Gibson プリウォーに間違いない。

ペグは最近のもの(恐らくGoto製)に交換されているので、オープンバックの復刻品に交換すれば、さらにヴィンテージ感が増しそうだ。これから下の写真は、Eさん自らがリペアしている過程の写真である。修理の一部始終をメールと写真で報告していただいたのだが、御本人の許可を得て、その一部をすこしだけ紹介したいと思う。

右の写真は、上塗りされたサンバースト塗装を剥がし終えたところ。タンポ染めされたオリジナルのステインの地が出てきている。そして、下の写真がすべての塗装をほぼ剥がし終えた状態。ステインは、染料であり木の奥まで染み込んでいるため、完全に落とすことはできない。
写真で見た感じでは、かなり濃い目のウォールナットで、これはロバート・ジョンソンが使っていた L-1 に近い色ではないかと思われる。

Eさんとも話したのだが、プリウォーの Gibson の音が素晴らしいのは、木が乾燥していることもあるのだが、もっとも大きな理由は、現在では考えられないほどの良い材料をふんだんに使って作られている点だろう。これは、本物を弾いた者にしかわからない真実であると確信している。
木の乾燥だけであれば、再塗装されたヴィンテージの音は、高額で売られているカスタムメイドの新品の L-1 と同等かそれに近い音になるはずだ。

さて、今回のレストアされた L-1 はどうだろうか? ちなみに今回の L-1 だが、修復されたのはトップだけでなく、トップ裏のブレーシングから内部のライニングにいたるまで、また、指板の減りをハカランダで埋めたり、トップ浮きをフラットに戻したりと、フルレストアといえるほどの大がかりなものだ。
まず、これほどのレストアを請け負ってくれる業者はいないだろう。あまりにリスキーであり、失敗した場合の損害を考えるとやりたがらないのは当然である。仮にいたとしても、相当な金額となってしまうのは間違いない。

左の写真は、ほぼフルレストアが済んだ状態の L-1 である。トップの塗装は、オリジナルと同じようにステインシェイデッド仕上げされており、バックはオリジナルよりも良いヴィンテージのジャマイカン・マホガニーという良材を極力薄くスライスしたものに交換されている。

さて、フルレストアされた L-1 の雄姿を見ると、まるでカスタムメイドの復刻品のようなのだが、音を出してみて驚嘆した。どんなに高額なカスタムメイドでも、まったく比較にならないほどのボリュームである。しかもなんともブルージーで良い音なのだ。見た目はもちろんだが、音の方もお譲りする前の状態をはるかに超えた仕上がりで感動した。取材やブログ掲載にも快くOKしていただいたEさんの素晴らしい仕事ぶりに対して、心からの賛辞をお送りしたい。もっとも喜んでいるのは、このL-1自身であろう。そのGibson愛よあっぱれ、そしてL-1プリウォーよ万歳!