2018年7月22日日曜日

アンビエント型スピーカー『CAN SPEAK』試聴インプレッション

今回は、コンランショップで売られているイギリス産の紅茶「C&B カートライトアンドバトラー EARL GREY TEA BAGS」の空き缶を使ったスピーカー『CAN SPEAK』の試聴インプレッションについて書いてみたい。

このスピーカーの構造は、今までのスピーカーの常識を覆す作りとなっている。スピーカーユニットは、円筒の空洞に向かって取り付けられ、接合部はシリコンで埋められている。では、どこから音が出るのかというと、高域は直接コーン(スピーカー表面の膜)背面から、中低域は円筒の空気室からコーンを通して、前後左右4つの方向に広がるかたちで音が出る仕組みだ。

空き缶などの円筒形のエンクロージャーにスピーカーユニットを逆向きに取り付けて音を出す方法については、前回の記事に書いたとおりだ。

出てくる音は、通常のスピーカーとはあきらかに異なる。四角い木の箱で作られた従来のスピーカーは、レコーディングスタジオのモニターと同様に逆三角形型のリスニングポジションで聴くことを前提に作られているが、このアンビエント型スピーカーは、コンサートホールで生の演奏を聴いているかのごとく、楽器一つひとつの音の広がりに近い音場を作り出す性質を持っている。

もっとも本領を発揮するのは、クラシック音楽である。本来、すべてのアコースティック楽器は、周囲の空気を振動させて音を響かせるものだ。

レコーディングスタジオでは、楽器の音をマイクで拾ってマルチトラック収録し、それをミックスして人工的に音場を作りあげるのだが、指揮者や楽団によっては、こうした作業を嫌う場合もあり、より自然な音を録音するために、ワンポイントで一発録りする方法などがとられてきた。

『CAN SPEAK』の音は、コンサートホールなどで聴くアコースティック楽器に近い響きであり、ホーンのような残響が特徴である。

試しに、1930年代のスイングジャズを聴いてみると、音に広がりが出て立体的な音場が目の前に広がった。SP盤にモノラルの蓄音機が主流の時代に作られた音楽のため、ステレオのような左右の広がりはないが、前後の広がりを感じる録音がされており、こうした音源にこの『CAN SPEAK』の響きはうってつけなのだ。

個人的に大好きな、ダイヤルやサボイに録音された1940年代のチャーリー・パーカーを聴いてみると、まるで水を得た魚のように生き生きと『CAN SPEAK』が鳴り出した。これは、以前友人の家で聴かせてもらった78回転の蓄音機の音そのものである。
ビリー・ホリディのデッカやコロンビア時代の音源も、妙に生々しい音で鳴ることからも、この『CAN SPEAK』がSP盤の時代に録音された音源再生に適しているのは間違いないようだ。その反面、ロックやポップスなどの現代的な音源となると、独特な残響が耳についてしまい、奇妙に感じる人もいることだろう。

グレン・グールドの『ブラームス間奏曲集』(1960年)、スヴャトスラフ・リヒテルの『平均律クラヴィーア』(1970年)などのクラシックの愛聴盤もなかなか良い感じで鳴っている。

2018年7月20日金曜日

アンビエント型スピーカー『CAN SPEAK』の特徴

空き缶を使ったオリジナルのスピーカー『CAN SPEAK』の第3弾を製作した。仕様は、はじめて作った『CAN SPEAK』とまったく同じで、缶のデザインのみが異なっている。

スピーカーユニットを逆向きに取り付けているのが特徴で、詳しくはこちらのページに書かれているので、興味のある方は読んでほしい。ドラム缶の中をリング状に音波が伝わり、底面で跳ね返った音をスピーカーユニットのコーン紙を通して前後左右に拡散する、リングリバウンド方式を採用している。

『CAN SPEAK』でさまざまな音源を聴いていくうちに、このスピーカーが得意とするのはホールで生音をオフマイク収録したクラシックなどの音源であることが分かった。

オーケストラは、本来はホールでなるべく楽団から遠い3階席などから聴くのがもっとも良い条件とされている。一つひとつの楽器は当然のことながら周波数や残響特性が異なるため、なるべく離れた位置で聴くほうが全体のオーケストレーションを目と耳で細かく把握できるからだ。

このため、クラシック音楽の録音は、レコーディングエンジニアがマイクで集音した音を左右のスピーカーに振り分けたり、奥行き感を調整したりといった細かな技術を駆使して完成させた音ではなく、指揮者の頭上のより高い位置に配置されたマイクで全体の音を集音するのが基本となっている。

『CAN SPEAK』は、ドラム内で密閉された空気をスピーカーユニットのコーンを通して前後左右の開口部から排出する構造で、音が全方向に広がるアンビエント型のスピーカーである。
5cmのフルレンジユニットの自然な響きを空間に拡散し、楽器の音色が持つ本来のふるまいと同様に各音が空間に広がっていく音場体験は、このスピーカーならではのものだ。

アンビエント型スピーカーは、その場にふさわしい自然な響きを空間にもたらしてくれる。リスニングポイントは自由で、従来の逆三角形型の配置にこだわる必要はなく、セッティングも自由だ。CAN SPEAKとは言葉が伝わるという意味だが、音を空間に広く伝えるのが『CAN SPEAK』の最大の特徴である。

2018年7月13日金曜日

新作スピーカー『CAN SPEAK』第2弾が完成! PM-M0841CK使用

コンランショップで買った紅茶の空き缶を使ってスピーカーを作ってみた。先日作った『CAN SPEAK』と同じ、スピーカーユニットを逆向きに取り付けることで、缶の空洞へリング状に空気を送り、その跳ね返りをコーンを通して排出させ、音を響かせるリングリバウンド方式を採用した。

ユニットとして使ったのは、廉価ながら高音質で定評のある PM-M0841CK。『77CUBE II』でも使っている、解像度が高く明るいハイファイサウンドが特徴のスピーカーユニットだ。
■PM-M0841CK 仕様
ユニット口径:77mm
インピーダンス:8Ω
入力:10W
再生周波数:150~10KHz
最低共振周波数:200Hz
エッジ:ラバー
コーン:クロス/プラスチック

今回は、このPM-M0841CKを下に配置し、スピーカーユニットのマグネットを土台にする構造とした。PM-M0841CK のマグネットは重量級で、この設置方法のほうが安定しそうである。

この紅茶の缶は、C&B カートライトアンドバトラー EARL GREY TEA BAGS というイギリス産で、見た目が可愛らしく、コンランショップで見つけて一目惚れして買ってきたもの。ハンドメイドのジャムやビスケット、コーヒーや紅茶があり、 風味豊かな味わいと、美しいパッケージが魅力である。

紅茶はティーバッグに入っていて、1包で2杯分飲めてとてもおいしい。缶は飲み干したあとも小物入れとして使えるようにデザインされており、一般的には茶缶として使われることが多そうだが、わたしは当初からスピーカーにするつもりだったので2缶買っておいた。

スピーカーユニットの PM-M0841CK は、エッジの外縁に厚紙でできた黒いカバーが緩衝用に付いているが、この黒いカバーごとすっぽりと缶底にはめこみ、隙間が生じないようにシリコンシーラントでまわりを埋めた。

現在、音楽をかけてエイジングをしているが、はじめて作った『CAN SPEAK』と音の傾向はよく似ている。音がリング状に伝わって跳ね返ってくる音をコーンのフィルターを通して聴くという方式は第1弾の『CAN SPEAK』と同じである。独特のエコーがかかり、無指向性による臨場感が味わえるのが最大の特徴だ。エイジングで音はさらに変わっていくと思われるので、その変化については追ってレポートするつもりだ。

2018年7月9日月曜日

エリック・クラプトンモデル、ホアン・アルバレス整備記 -2

今回は、刷毛塗りでシェラック塗装を行ったが、もしもギターが完全に素の状態だったなら、躊躇せずにタンポ塗りを選んだと思う。わたしのギターは、前のオーナーによって裏板と側板に薄くシェラックが塗装されており、目止めされずに塗装されたのか、表面がすこしざらついているような状態だった。

タンポ塗りするにはふたたび塗装を剥がし、目止めから行わなくてはならず、手間がかかる作業になるため、刷毛で塗り重ねる方法を選んだ。刷毛塗り後は耐水ヤスリでサンディングし、コンパウンドで磨いて塗装面の凸凹が無くなったら、最後にワックスで塗装面を磨いてツヤを出せば完了だ。

サウンドホールから覗くとホアン・アルバレスのシールが貼ってある。シリアルナンバーを見ると、2011年に作られたギターであることがわかる。直筆のサインではなくスタンプが押されているのが、この時代のエスチューディオの特徴だ。

裏板と側板にはインディアン・ローズウッドの単板、トップにはシダーの単板が使われている。出音はボリュームがあり、温かみのあるサウンドだ。3年前より木が乾燥したのかとても鳴るようになった。同時に小平のAST100を入手したので常に両者を比較してしまうのだが、購入時はAST100の繊細でやや硬質な音のほうが好きだったのに、今ではアルバレスの温かくギター全体が共鳴している音のほうが良いと思うようになった。

小平のAST100もとても良いギターなのだが、ウレタン塗装のためか木の経年変化に乏しく、音がほとんど変わらないのに対し、アルバレスのほうは塗装を剥がしていることが影響しているのか、元々の材質の違いなのか、3年でこうも変わるのかというほどの成長ぶりだ。

今回、シェラック塗装が済んで弦を張ってみたのだが、塗装が厚くなった分、共鳴が抑えられるかと思いきや、音はよりマイルドで鳴りも良くなっている印象だ。この変化がシェラック塗装によるものなのか、単に気候の変化によるものなのかは分からないが、すこし不思議である。

高級ギターで使われいるニトロセルロースラッカーの良さはよく知っているが、シェラック塗装されたギターの音は、これがはじめての体験だ。上述の音の印象については、塗膜が固まりきってないことも影響しているのかもしれない。

ウレタンの塗膜が硬質で工業製品的な冷たい音だとすれば、シェラックはしなやかで有機物的な温かい音というのが率直な感想だ。そして、アルバレスのギターの音がどんどん変わってきているのは事実である。あらためて、木は生きているというのを実感する体験だった。

エリック・クラプトンモデル、ホアン・アルバレス整備記 -1

エリック・クラプトンがグラミー賞を受賞した『アンプラグド』で使っていたクラシックギターをご存知だろうか? 同じステージで使われたマーティンの000-28が人気になったのに比べ、なかなかスポットの当たらなかったこのギターは、スペインの名匠、Juan Alvarez ホアン・アルバレスによる1977年製のクラシックギターだ。

現在は、2代目のアルバレス氏がギター工房を引き継いでいるのだが、クロサワ楽器がエリック・クラプトンモデルとして特注販売しているのが1977年製を再現したこの特別モデルだ。特徴はヘッドシェイプがギブソンのアコギのようにV字型にくり抜かれている点。

メーカーによる大量生産品とは異なり、個人工房は生産できる本数に限りがある。クロサワに入荷するのも一度に3本から多くとも10本という本数で、たまに限定販売されているようだ。

このホアン・アルバレスのクラプトンモデルが3年ほど前に我が家にやってきた。クラプトンモデルにはC2(定価105万円)とエスチューディオ(定価32万円)の2種類があるが我が家のは廉価版のエスチューディオのほう。

高級版のC2とエスチューディオとの差は木材に加えて塗装工程にある。C2はシェラックニスを塗り重ねたうえに磨き上げられているのに対し、エスチューディオはラッカー塗装で簡易に仕上げられている。
シェラックとは、カイガラムシの分泌する虫体被覆物を精製して得られる樹脂状の物質のことで、アルコールで溶解させた液体をヴァイオリンやギターなどの塗膜にしたり高級家具のニスとして古くから使用されてきた。

わたしの入手したギターは、オリジナルのラッカー塗装を剥がし、シェラック塗装を施している途中のもので、前のオーナーから原料となるシェラックフレークと一緒に譲っていただいたものだ。入手してから3年の年月を経て、今回ようやくシェラック塗装に取りかかることができた。
アルコール純度100%のイソプロピルアルコールでシェラックフレークを溶かすのだが、完全にシェラックが溶解して液状になるまでに二週間ほど時間がかかった。

クラシックギター製作者のバイブルである名著「メイキング・マスター・ギター」(ロイ・コートナル著)によれば、シェラックの塗装方法には刷毛塗りとタンポ塗りの2通りあるという。今回は、慣れている刷毛塗りでシェラック塗装を行ってみた。均等に塗装するということではタンポ塗りよりも難しいのだが、被膜を塗り重ねていく手間が省けるのが刷毛塗りのメリットだ。

2018年7月5日木曜日

リトルカブに、コストコで買った『Insta Crate』を取り付けた!

先日、コストコへ行った際に、折りたたみ式の収納ケース『Insta Crate』という商品を見つけた。

内容量は46Lとたっぷりあり、キャンプや買い物に便利なのはもちろんだが、リトルカブの荷台用ケースとして使えそうだと思った。

内寸でW490×D325×H285あり、簡単に折りたためて作りもしっかりとしている。しかも、キャンペーン割引期間中でこれが1個890円(税込)という安さである。


この『Insta Crate』、薄く折りたためるのが最大の特徴なのだが、リトルカブに取り付けた場合、この折りたたみ機能はスポイルされてしまうかもしれない。すこしもったいない気もしたが、その軽さとデザインも気に入ったので、イメージ通りにリトルカブに取り付けることにした。

取り付け方法は『Insta Crate』に穴を開け、取り付け金具で荷台とサンドイッチするようにビスとナットで固定するだけ。
リトルカブに取り付けた状態がこちらの写真だ。

フロントには、先日取り付けたダイソーの白い網カゴが付いている。『Insta Crate』の収納力は抜群で、以前の木箱よりも丈夫で風を通さないため帽子が飛ばされることもなく使用感も快適だ。

見た目が配達車に見えるのが難点といえば難点だが、何も載せないときは折りたたんでしまえば目立たない。空気抵抗も減るので、普段は折りたたんで使ったほうがいいかもしれない。
ちなみに『Insta Crate』を折りたたむと右の写真のような状態となる。ピザボックスを荷台に取り付けているような外観となり、若干スマートな印象だ。

『Insta Crate』には、赤、青、黄、黒などのカラーバリエーションがあるので、バイクの色に合わせてコーディネートするのもいいかもしれない。

コストコなどの大型スーパーで食料品や洗剤などをある程度買っても、46Lの収納力は結構頼りになりそうだ。

2018年7月1日日曜日

National ナショナル ポータブルフォノグラフ SG-503N 修理記 -2

SG-503Nの背面側のモーターと電源コイルの様子がこの写真。モーター部にはこちらも2箇所OILの刻印と穴があり、潤滑油を注入できるようになっている。

この部分にもCRC5-46を吹いてからダイソーの万能オイルを射してみた。

先のブログ記事によれば、オイルを射すだけではモーターは動かず、古いオイルを溶かすためにヒートガンを使ったと書かれている。我が家にヒートガンはないが、これはヘアードライヤーで代用できそうだ。


さて、モーターを指でアシストしたら動いた話の続きを書くと、そのまま回転レバーを0にした状態で1時間ほど置いておくと摩擦熱で固着していたオイルが溶けたのか、どうやら走行系は問題なく治ったようだ。

試しに45回転のシングルレコードを聴いてみると、ピッチが遅いのが分かった。速度調整レバーで一番早い状態にしても、若干回転が遅く、これはこの個体が60ヘルツ版であることが原因のようだ。西日本なら問題なく作動することだろう。

ちなみに33回転のLPで試してみると、やはりピッチが遅いのが分かった。また、レコードに反りがあるとアームとレコードが干渉してしまい、ピッチが安定しなくなる。このレコードプレイヤーでLPを聴くときはスタビライザーが必須のようだ。

今回の修理を通じて、あらためて周波数の違いについて考えさせられた。明治時代に電気が敷かれる際、東京には「ドイツ製」、大阪には「アメリカ製」の発電機が使われたことが発端で、未だに異なる周波数のまま再整備されずに現代にいたっているのだ。

※西日本で50ヘルツ版のSG-503N(可動品)を持っていてお困りの方がいたら、交換に応じるのでご一報ください。