2011年7月24日日曜日

YAMAHA Dynamic Guitar No.80 リペア その2

ダイナミックギター No.80 リペアの続きです。ネックアイロンによる矯正でネックは真っ直ぐになりましたが、弦を張ってみると6弦がビビっています。前オーナーが弦高を下げるためにナットを削りすぎたのが原因のようです。

早速、クラシックギター用の牛骨ナット(長さ60mmのもの)を買ってきて、ナットの成形を行いました。No.80 のナット幅はちょうど 50mm です。のこぎりで10mm分削ってナット幅に長さを合わせてから、ヘッド側にRをつけていきます。


ナットらしい形に成形できたら、弦の通り道を6本分掘っていきます。No.80 はネックが太く、サイド・バックはメイプルを使っているので重量も結構あります。鉄弦を張っても良いのですが、テンションがきつめで若干弾きづらさを感じるので、ついでにナイロン弦に張り替えることにしました。



ナットの交換によって、音のビビリは解消されました。ナイロン弦なのでテンションも弱く、このギターにはこれがベストかもしれません。傾向としては、スプルース単板のトップと、メイプルのサイド・バックという同じ材料を使った、ヤマハの No.45 や、No.100 と同系統のサウンドです。難点はネックの太さですが、ギブソンのヴィンテージのように三角ネックに削ってあげれば、さらに弾きやすくなるのではと思います。

2011年7月18日月曜日

YAMAHA Dynamic Guitar No.80 リペア その1

ヤマハのダイナミックギター No.80 のリペアを行いました。ブリッジの付け根に沿って、23cmにも及ぶクラックが入っていて、このままではとても使えない状態です。

まずは、トップの割れ具合を見るために、デジカメでギター内部を撮影。ブリッジ端のちょうど下あたりにブレーシングが扇状に2本付いているのが見えます。






これは、ダイナミックギターに元々付いている力木のようで、反対側にも同じブレーシングが施されています。








次に、タイトボンドを注射器で割れ目に摺りこんでからクランプで固定。このまま数日放置してから、割れ目に沿って内部から木のパッチで補強しました。






強力マグネットでパッチを挟むようにして固定し、タイトボンドが乾くのを待ちます。パッチが接着できたら、ボディをコンコンと叩いてみて、クラックの補強状態を確認します。







反響音がコーンと濁りなくボディ全体に響いていれば、きちんと補強されています。割れ目の周囲についていたテープの剥がし跡もきれいに拭き取りました。







鉄弦を張ってみると、やや弦高が高めです。6フレットを境にした弓なりの順反りが原因のようです。幸い、元起きはしてませんでした。ネックアイロンによるヒーティングを数日間かけて繰り返し、一週間放置してみるとネックは真っ直ぐになり、弦高も適正なレベルまで調整できました。

2011年7月17日日曜日

Gibson L-48(1940年代)リペア その3

ギブソンL-48 リペアの続きです。ネックアイロンによる矯正で、ネックは真っ直ぐになりました。新調したローズウッドのブリッジもトップにピッタリ密着しています。

ネックの矯正によって、大部分の音詰まりとビビリは解消されたのですが、6弦の7フレットと9フレットがまだビビっていたので、フレットの摺り合わせを行いました。






フレットを削りすぎないように「削っては音出し」を数回繰り返して、満足のいくレベルまで調整できました。








前回取り付けたオープンバックペグは、強度的にイマイチだったので、奮発して1960年代のヴィンテージ・クルーソンデラックス3連ペグを取り付けました。見た目もベストマッチの組み合わせです。飴色に変色した白ボタンが何ともいい感じ?。




これでリペアは完了です。トップのクラック痕も部分塗装で目立たなくできますが、この傷痕はむしろこのギターのトレードマークだと考え直して、そのままにすることにしました。

ジャズでもブルースでもない、1920年代にシカゴで誕生し、1950年代にイギリスでリバイバルしたスキッフルや、カントリー系の音楽に似合いそうなアーチトップです。女性が抱えて弾いても恰好いいかも。

2011年7月3日日曜日

Gibson L-48(1940年代)リペア その2

L-48のフラットバックです。激しいクラックが2本入っています。Fホールから覗くと、部分的に木のパッチで補強されているのが見えました。ボディ全域に入っている方のクラックは、バックの一部を一度取り外して再接着した痕のようです。もう片方のクラックは、上記修理の際に、内側から補強されていると思います。サイドにも激しいクラックが縦に入っていて、やはり内側から同じように補強されているようです。がっちりと補強されているので、剛性自体は問題ありません。クラックの激しさからみて、自然に入ったものではなく、何らかの事故によるものではないでしょうか。




さて、次は反ったネックの矯正です。角パイプをあててみたところ、9フレットから10フレットあたりで順反りしてました。音のビビリは、この順反りが影響していたようです。反っている箇所をクランプで締めつけ、ネックアイロンをセットして、矯正にとりかかりました。

Gibson L-48(1940年代)リペア その1

新たにギターが到着しました。ギブソンの L-48 です。マホガニートップを使った、おそらく1940年代後半のモデルのようです。L-48 にしては珍しく、フラットバックになっています。アメリカ、ジョンストンのロードアイランド州から、はるばる日本までやってきました。







届いたギターをチェックすると、要修理と書かれていた通り、弦高が低すぎて4フレットくらいから音にビビリがありました。右の写真は取り外したペグとブリッジ。






まず、ペグを1940年代らしくギブソンのオープンバックのものに交換することに。使わないペグ穴を楊枝で補強してから、ギブソンのオープンバックペグ(1960年代製)を取り付けました。





次は、ブリッジの交換です。ローズウッドのアーチトップ用ブリッジを入手して、トップの曲面に合わせるためにブリッジ台の裏を削り込みました。やすりをテープでトップに固定して、ブリッジを上下に擦ってサンディング。





これで、パーツ交換の準備は完了です。ネックの反りは、手製のネックアイロンで矯正したいと思います。音のビビリに加えて、音詰まり、特定のフレット以上で同一音階が出ていましたので、フレットの擦り合わせが必要かもしれません。まずは、アイロン矯正してから状態を確認しようと思います。

YAMAHA Dynamic Guitar No.70 リペア記 その7

指板をニカワで再接着してから数日たちました。まだ完全に乾ききっていないうちに、ネックの元起きを何とかしなければなりません。よく晴れた日に、作業台にギターを置いてみたら、ごくシンプルな矯正法を思いつきました。

No.70 の指板はとても厚みがあって固く、ネックはやわらかいので角度をつけやすいという特性を生かして、逆反りのクセを付けてあげれば良いことに気づいたのです。早速、作業台の上にギターを逆向きにセットして、L型クランプで固定しました。

かなり原始的な方法ですが、ニカワがやわらかい状態で強烈な太陽光の下にしばらく置いておけば、それなりの効果があるはずと考えました。

逆反り状態まで持っていくために、ナット部分に当て木をはさんで嵩上げし、様子を見ながら2日間放置してみました。




この方法は、かなりの効果があり、大きく元起きしていたネックの付け根は、クランプを外しても安定しています。弦を張ってみると、部分的に音が詰まるほど、弦高を下げることができました。


理想は、弦をチューニングした状態で、12フレットの弦高が2.5mm以内であること。弦を張った状態で3日ほど置いてみると、音詰まりもない理想的な角度になっていました。ここで一旦、弦を外してニカワの乾燥を待つことに。ちなみに前回紹介した、指板を剥がすときに道連れにしてしまったトップは、裏側から当て木で補強してあります。

このNo.70は、ネックが太くて特にローポジションでの弾きづらさが難点です。指板を再接着した際に、わずかに指板が広がってネックとの間に段差ができてしまった(おそらく、ネックのほうが蒸気を吸って縮んだものと思われます)ので、この段差を削るついでにネックの裏側も削って弾きやすい太さにすることにしました。

サンドペーパーでサンディングして、ネックを削った状態です。弾きやすい太さになるまで、他のダイナミックギターと比較しながら、時間をかけて削る作業を行いました。

削った部分に、目止め用のセラックニスを塗った状態です。更に染色しながらセラックを重ね塗りしても良いのですが、これはこれで結構味があって気に入ってます。




リペアが終了したダイナミックギター No.70。
ブリッジのネジ隠しに、パールインレイを接着して化粧直しも終えました。

とても手のかかるリペアとなりましたが、愛らしいデザインを持つ貴重なギターを復活させることができてホッとしています。良い経験になりました。

YAMAHA Dynamic Guitar No.70 リペア記 その6

ネックリセットのための専用工具が届きました。ネックリムーバブルジグとネックジョイントスチーマー(スチームをネックに通す管)です。シッピングと合わせて157ドルほどでした。この No.70 を修理するために、かかった経費は5万円くらい。かなりの出費ですが、リペアのための授業料ということで良しとします。


さて、いよいよネックリセットに取りかかることに。まずは、ネックジョイント部分にスチーム用の穴を開けます。ネックジョイント部の空洞位置(ネックポケット)を予測して、インレイの内側にあたる部分にドリルで2mmの穴を開けました。




次に、シリコンラバーヒーターを使って指板を温めてから、スクレイパーで指板を剥がしていきます。このギターは、ネックの元起きによる圧力で指板がトップにめり込んでいる状態です。水平に剥がしたかったのですが、トップの一部がめくれてしまうのは避けられないようです。




ネックの付け根部分まで指板を剥がしたら、いよいよスチームの注入です。リムーバルジグを取り付けた状態は、まるで救命道具のようです。ドリルで開けた穴にスチームの管を差し込み、ポンプ式のスチームクリーナーから、高温の蒸気をネックに注入していきます。



しばらく蒸気を注入していくと、12フレットの四角いポジションマークが浮いてきました。インレイを取り去ると、ネックヒールの位置に丸い穴が開いており、そこから溶けたニカワが吹き出てきました。

頃合いを見て、ネックヒール裏にセットしたリムーバルジグのネジを締めてみましたが、ネックはビクともしません。ネックポケットの位置がずれている可能性があるので、もう1カ所ドリルで穴を開けてスチームを注入しましたが、やはりネックは外れませんでした。


こうなると、指板をすべて剥がしてみないことには、先に進めません。ラバーヒーターで指板全体を温めてから、スクレイパーで剥がし取りました。指板を取り外してみると、ネックジョイント部分は写真のような構造でした。ネックポケットはなく、接合部がぴったり密着していて、これではいくらスチームを注入しても外せないはずです。何故か12フレット位置に丸い穴がくり抜いてあり、ニカワはこの穴から吹き出たものと思われます。



ちなみに、最初にドリルで開けた穴は、ネックブロックとの接合部に的中していました。
ダイナミックギターすべてがこの構造なのかはわかりませんが、少なくとも初期のものはネックの取り外しは避けたほうが無難のようです。
無残にもめくれてしまったトップは、後で修復してあげる予定です。

YAMAHA Dynamic Guitar No.70 リペア記 その5

注文していたラバーヒーターが届きました。ヒーターからはリード線が出ているだけなので、コンセントへの配線が必要です。電源がオン・オフできるように、中間にスイッチを付けてハンダ付けしました。電源を入れてみると、数秒でかなりの熱を発します。早速、ネックアイロンに取り付けてみました。




角パイプの内径と長さを測ってからヒーターを注文したので、アイロンにぴったりと収まっています。


スイッチを入れて数分すると、ラバーヒーターからの熱でアイロン全体に熱が伝わります。触るとやけどするくらいに強力です。まずはテスト的に10分のタイマーをかけてヒーティングし、スイッチを切ってから数時間放置。さらに、同じ操作を数回繰り返しました。




それから一晩置いて、翌日ネックの状態を見てみると、期待通りの効果がありました。ネックは真っ直ぐに矯正されています。
さて、これで弦高が十分に下がっていればリペアもめでたく終了なのですが、試しに6弦を張ってみたところ、12フレットで5mm弱あり、まだ改善されていません。やはり、アイロン調整だけでは限界があるようです。次はいよいよ、ネックリセットに挑戦しようと思います。