1970年発売のビートルズ最後のアルバム「レット・イット・ビー」のリマスター版を聴いた。オリジナルのステレオマスターが元になっている。旧CDよりも音圧が上がっているのは、今までのアルバムと同様だ。個人的には、2003年にリリースされた「レット・イット・ビー ネイキッド」にも関わったアビイ・ロードのエンジニアが、何かと問題となるフィル・スペクター版の本作をどのように仕上げるのかに関心があった。
"Two Of Us"では、オープニングのジョンによる喋り部分で目立っていたヒスノイズがだいぶカットされて聴きやすくなっている。また、1分29秒にあったカタッというノイズも無くなっている。
"Dig A Pony"では、旧CDとの音質の差はあまり感じられない。ネイキッドでは、音を絞っていた2分09秒にある誰かの声はそのまま生かされている。
"Across The Universe"は、元々Dの音階で録音されていたものを、スペクターが1音階下げてオーケストラを大胆に被せたというオーバー・プロデュースの1曲。旧CDには3分07秒にブツッという大きなノイズが入っていたが、今回は消されている。個人的には、オーケストラの入らない、普通の音階で歌われているネイキッド版が好きだ。
"I Me Mine"は、'70年1月3日に、ジョージ、ポール、リンゴの3人が集まって録音されたビートルズとして最後のレコーディング曲のひとつ。この曲にもスペクターによってオーケストラが加えられている。旧CDよりも低音が強調されている。
"Let It Be"では、出だしのピアノの頭にカチッというノイズ、09秒にはプツッというノイズが入っていたが、今回のリマスター版ではきれいに消されている。この曲は、基本は同じテイクながらシングル盤として別のミックスが存在しており、こちらのプロデュースはジョージ・マーティンが行っている。大きく異なるのはジョージのギターソロで、シングル版、アルバム版、ネイキッド版で、3種類の異なるソロを聴くことができる。個人的にはシングル版のソロが一番好きだ。
"The Long And Winding Road"では、19秒に入っていたドンッという大きなノイズが目立たなくなっている。オーケストラの音も旧CDより遥かにクリアでレンジも広がっている。元々はシンプルな編成で録音されていたものに、スペクターが大胆なアレンジを加えたことでポールが怒ったのは有名である。本来のアレンジはネイキッドで陽の芽を得たが、リチャード・ヒューソンによるストリングスアレンジも素晴らしく、このアルバムのハイライトとなっている。
間にシンプルなブルースナンバー"For You Blue"を挟んで、最後にラストを飾るのが"Get Back"だ。ビートルズ最後のアルバムのトリを飾るノリの良いロックンロールだが、ネイキッドではいきなりオープニングに選曲されている。この曲も、マーティンのプロデュースによるシングル版が存在する。スペクター版には、曲の最初と最後にメンバーの声や楽器の音が入っているが、曲が始まっているにもかかわらず、ビリー・プレストンによるチューニング用のキーが残っている。(ワン・ツー・スリー・フォーのカウントが小さくて聞こえなかったのだろう)
最後に、旧CDとの比較結果をまとめると、おそらくネイキッドで、やるべき仕事はしつくしてしまったのだろう、スペクター版を作品として尊重しつつ、ノイズリダクションとごく僅かなイコライジング処理に徹したリマスターになっている。
曲別では、"The Long And Winding Road"での音質の向上が目立つ程度で、その他の曲ではあまり大きな差は感じられなかった。
1 件のコメント:
>曲が始まっているにもかかわらず、ビリー・プレストン
>によるチューニング用のキーが残っている。
このキーボードの音は、ルーフトップコンサートのウォーミングアップ中の音なんです。実際は、キーボードやギターの音がただ鳴っているだけで、もちろんその後に"Get Back"は始まりません。
フィル・スペクターが、ライブの臨場感を出すために、"Get Back"のスタジオ録音版に無理矢理くっ付けたわけですね。
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