映画"Across The Universe"を観た。全編ビートルズの曲をモティーフにしたミュージカルで、2007年に公開された映画である。公開当時、ミュージカルということで敬遠していたが、YouTube の映像を見て興味が湧いたのでDVDを注文した。特筆すべきは、キャストが吹き替え無しで歌を唄っているということと、映画のストーリー自体、ビートルズの歌詞をつなぎ合わせて物語化しているところ。
登場人物の名はすべてビートルズの曲にちなんだ名前が使われており、たとえば主人公はジュード、その恋人役はルーシー、そしてその他の登場人物もセディ、マックス、プルーデンス、ジョジョ・・・といった具合である。
舞台はベトナム戦争当時に設定されてはいるが、美術的なセットは現代のイギリスとアメリカのありのままが瑞々しく映像化されている。ジム・スタージェス演じる主人公ジュードは、リバプール出身の労働者階級出身だが、独特なリバプール訛りを上手く劇中で披露していて、まるでポール・マッカートニーが喋っているように聞こえるのが面白かった。
主人公はイギリスに駐在していたアメリカ軍兵士とイギリス人の母との間に生まれた子という役柄で、これはビートルズというよりエリック・クラプトンの生い立ちそのもの。
映画を通して、あらためてビートルズの歌詞と真っ向から接したが、初期の恋愛をテーマとした赤裸々な歌詞から、平和や革命、ドラッグといった社会現象と向き合った中後期の歌詞を、映画のストーリーと同時に見ていくと、あらためてその詩が持つピュアな力に圧倒される思いがした。
ベトナム帰還兵たちの病棟で歌われる"Happiness is a Warm Gun"などは、訳の解釈を巡っていろいろな方向に分かれる曲だが、銃(Gun) をドラッグの針や男性の性器という解釈で映像化したシーンなどは、ジョンのねらいそのものではないだろうか。リアルタイムでは、翻訳しずらかった過激な詩も、映画としてストーリー化されることで、現代的な生の声として新しく生まれ変わっており、ビートルズの詩集などで育ってきた人にも新しい発見があるはずだ。
ちなみに、"Come Together"のなかの、He Shoot Coca-Cola の部分は、ストレートに「コカインを打つ」と翻訳されている。
かつて、Barclay James Harvest の歌のなかで、ビートルズの曲名をモティーフにした歌詞があったが、映画のストーリーそのものをすべて歌詞から再構成するという試みは斬新で、さながらビートルズの名曲を用いたロック・オペラという見方もできるだろう。物語として見ても展開はごく自然で、あらためてビートルズの詩が映像的・物語的だったという事実に気がつかされた。
特に後期のジョン・レノンの詩はラディカルで、溢れんばかりの抽象的かつ視覚的な言葉の羅列に圧倒される。映画のなかでは、時に幻想的で切なく、時にサイケデリックで挑発的な美術と衣装がつぎつぎと展開する様は、舞台芸術を思わせるパワーを感じさせ、ブロードウェイの「ライオン・キング」を手がけたジュリー・テイモア監督の手腕が遺憾なく発揮されている。
ザ・フーの「トミー」や、ピンク・フロイドの「ザ・ウォール」のように、サウンドトラックとしてではなく、ロック・オペラとして音楽を聴いてもよいし、コンサートと演劇を融合させた新たな総合舞台芸術としての可能性も感じさせる作品となっている。
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