謎の国産ヴィンテージギターを入手した。アーチップでFホール式の、いわゆるピックギターである。ラベルには、KASUGA MUSICAL INSTRUMENT MFG Co.,LTD NAGOYA JAPAN の表記があるので、春日楽器による自社ブランド製品だったのかもしれない。おそらく1950年代〜60年代にかけてつくられたギターだと思われる。
届いたギターには、ナットとブリッジが付いておらず、長年の汚れで全体的に色がくすんでいた。不良品として捨てられてもおかしくないような状態である。ただ、木は乾燥しきって非常に軽かったので、いかにも枯れたサウンドがしそうな風情だった。
ピックガードを外してみると、表板のもともとの艶が残っていたので、ギター全体の汚れを落としてから、液体コンパウンド(メディコムのキングブライトを使用)でバフがけをすると、本来の艶がもどってきた。トップにはウェザーチェックが全体に入っていて何とも渋い感じ。
リペア初日は、ボディをひたすら磨き続けて終了。セルロイドのピックガードもピカピカになった。
リペアの第二工程は、ナットの削りだしに時間を費やした。写真からもわかるように、このギター、何故かナット部分が二段構造になっており、通常の二倍は手間がかかりそうである。考えた挙句、ネックのえぐれた部分にクラシックギター用のサドルを成形してはめ込み、ナットは単独で成形することにした。サドルとナットはおなじ牛骨素材のものを使用。
ナットの成形作業は、今回で二回目なのだが、かなり根気のいる地味な仕事である。小型の万力にナットを固定し、鉛筆のあたりに沿ってちょうど良い長さに切断。その後は、ナットらしいなだらかなカーブを削りだしで地道に成形していく作業が待っている。
この作業に約二日間を費やした。
最後の工程は、ブリッジの調整。本来なら、ブリッジのセッティングを先にしたほうが作業はしやすいのだが、ブリッジの調達に時間がかかってしまい順序が逆になってしまった。
ネックに反りがあったため、アジャスタブル式で尚かつ弦高が低めのブリッジを使用した。
さて、これからがリペアの詰め所、オクターブ調整である。ナットの角度をすこし変えただけでもピッチに大きな影響を及ぼすため、作業には細心の注意が必要となる。まずはブリッジを、Fホールの真ん中位置に固定し、弾きやすい高さまで弦高を調整する。次に、オクターブの合わない弦のナットを削って角度を調整していく。ナットの溝を掘りすぎるとビビリが出てしまうため、ダイヤモンドヤスリで少しずつ削っていく。
途中、オクターブピッチがどうしても合わなくて、何度か挫折しそうになりつつ、休憩時間をとってから気分を変えて再度調整。これを数十回くり返して、どうにか演奏ができるレベルまで到達することができた。楽器というものは面白いもので、調整しても弾かないで放っておくと、どこかがおかしくなるもの。反対に、ピッチが安定しなかったこのギターも、長い時間弾いていたら次第にオクターブが合ってくるのだから、不思議なものである。
参考までにこれまでかかった費用概算。
ギター本体 7,550円
(以下、リペアパーツ代)
牛骨サドル 420円
牛骨ナット 420円
ブリッジ 2,980円
同じ修理を依頼すればおそらく数万円はかかるので、普通なら捨てられた挙句に燃やされる運命だったに違いない。こういう古い楽器を蘇生させるのも趣味として悪くないかもしれない。
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