日曜日に、早稲田松竹の「ガールズ・イン・ザ・ディレクターズ・チェア」という特集を観てきた。1本は、マドンナの初監督作品「FILTH AND WISDOM」(邦題:ワンダーラスト)、もう一本がゾエ・カサヴェテスのやはり初監督作品「BROKEN ENGLISH」。
「ブロークン・イングリッシュ」については、昨年このブログで書いたとおり、ここ数年観たなかで最も気に入っている映画だ。昨年、ロードショーで観て以来、映画館で観るのは今回で3回目になるが、毎回感動するシーンが違うのは、自分のせいなのだろうか?
今週の金曜日までやっているので、まだ観てない方は是非、映画館で観てほしいと思う。30代以上の独身者なら男女を問わずおすすめの映画だ。
もう一本の「ワンダーラスト」(この邦題、なんとかならないだろうか)は、マドンナの自伝的映画だと思っていたが、まったく違うものだった。ちなみに、キャッチコピーは「これがマドンナの墜落論」だがこのコピーもいただけない。
舞台はロンドンの片隅。ウクライナ移民の詩人兼ミュージシャンと、バレエダンサーを目指す20代女性、そしてアフリカの貧しい子供たちを救う夢をもった中性的な30代前後の女性。この三人の“夢と現実”を、コインの表裏に喩えたのが原題の「FILTH AND WISDOM」、すなわち「墜落と賢明」である。
主人公は、マドンナが惚れ込んだカリスマ的人気を誇るミュージシャン、ユージン・ハッツ。映画の主人公 AK の生き方を地でいく個性豊かなタレント(才人)である。マドンナは、ユージンに対しては演技指導をほとんどせず、スケジュールから演技までほとんどすべてを開放したという。脚本クレジットにはマドンナとダン・ケイダンの名前があるが、ストーリーそのものは、ユージン・ハッツとマドンナの人生をミックスしてできたものと解釈するべきだろう。
この映画に限っていえば、マドンナの名前は映画のプロモーションにはむしろ逆効果だったのではないだろうか。H&MのCMをマドンナが演出したことが、この映画製作のきっかけになったそうだが、脇を固めるスタッフ陣の顔ぶれを見れば、マドンナの名前を出すまでもなく、カルトムービーとして成功する要素は充分揃っていると思えるからだ。
良くも悪くも、この映画はユージン・ハッツのための映画であり、ウクライナ出身のトリックスターが本物のカリスマへと変貌を遂げていく瞬間を映画化したものだ。今では、あの GUCCI が彼をイメージして、2008年秋冬コレクションをデザインしたと公言するほどのカリスマに成長したユージンは、役を演じる意識すらまったくなかったそうで、80年代の文化的アイコンであるマドンナが目をつけたのもある意味で納得がいく。
古くは、1940年代のキャブ・キャロウェイ、比較的最近なら1980年代のキッド・クレオールといった道化師をやや小粒にしたようなユージン・ハッツだが、男爵がエスプリの利いたパンクを唄っているようなイメージが新鮮だ。自国が政治的な問題を抱えている移民たちばかりで結成したという多国籍バンドから伝わってくる、雑多なヴァイブレーションも含め、ボーダーミックスな新しいカルチャーを予感させる。ボーダーレスではなく、国境を引きずっているからこそ面白いのだ。
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