2018年6月1日金曜日

新宿レコードの思い出

新宿西口にあった『新宿レコード』という店を知っているだろうか。1970年に開店したロックの専門店である。わたしは1978年頃から数年に渡って、他店では手に入らないユーロロック(プログレ系)のレコードを求めてよくこの店に通っていた。新宿レコードではじめて買ったのは、ヴァンゲリスの『チャイナ』だったと思う。日本盤が出る1年くらい前に新譜で店頭に並んでおり、そのマニアックな品揃えは圧倒的だった。

当時の輸入盤、とくにフランスやドイツなどの欧州盤の価格は高く、一枚の平均的な値段は3,800円くらいだったと記憶している。1978年の大卒初任給が105,500円(男性)、99,000円(女性)だったことを考えると、いかに一枚のレコードが高価だったかが分かるだろう。わたしは、昼食代を貯めてレコードを買っていたが、一枚買うのに大きな覚悟が必要だったのは言うまでもない。

そして、新宿レコードといえば、名物マダムの藤原邦代さんの存在が大きかった。はじめてお店へ行ったときも『チャイナ』をカウンターへ持っていくと、「これ良かったわよ。昔のヴァンゲリスに戻った感じね」と教えてくれたのを覚えている。

当時のヴァンゲリスは、『炎のランナー』でブレイクする前で、日本ではまったくマイナーな存在。わたしが買った『チャイナ』は、中国をテーマとしたアルバムで、壮大なオーケストレーションと中国の音階がミックスされた秀作である。

前のアルバムが『beaubourg 霊感の館』という、実験的な電子音楽だったため「昔に戻った」と教えてくれたのだろう。情報に乏しいユーロロックのレコードを、なけなしの小遣いを使って買うのだから、こうしたマダムの助言は本当にありがたいものだった。

その、新宿レコードが、今年の2月に新宿から下北沢へと移転したという情報を得た。そして残念なことに、名物マダムは移転した新店舗の仮オープンから数日後に、あの世へと旅立たれたのだそうだ。このブログで新宿レコードのことを書いていて、偶然その訃報を知った。これも何かの知らせに違いない・・・そんな思いで、今日は新宿レコードを訪ねて、元気だったマダムを偲びつつ、往年のロック少年だったころの自分にタイムスリップしてこようと思う。

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