2009年4月23日木曜日

Frost × Nixon


学生運動はなやかしき1970年代前半、当時のアメリカ大統領といえば、ニクソン。日本の総理大臣と言えば、佐藤栄作だった。ウォータゲート事件のことは、連日連夜テレビで報道され、熾烈だった学生運動と合わせて、何かが起りそうな予感を当時まだ小学生だった子どもながらに肌で感じていた。
しかし、間もなく起ったオイルショックの影響もあり、加速するインフレ危機のほうが社会にとっては切実で、こうした「闘争」もこの問題で一旦流されてしまったかのようだった。
この闘争が一種の流行でしかなく、経済的、物質的な危機の方が遥かに大きな問題であることを、誰が語るのでもなく時代の空気が如実に物語っていたと思う。

フロストというトークショーの司会者が、かつての大統領とルールなしのディベートを行う。
この、討論エンターティンメントのおそらくルーツとなった空前の番組企画の裏話が、克明に紐解かれていく。
テレビというメディアの怖さ、すなわち映像を通して人間の右脳に訴えかける情報量が、圧倒的に文字情報を超えてしまうという現実を、これほどまで実感させられたことは当時なかったに違いない。

久方ぶりに社会派の映画を観た。最初はニクソンよりもレーガンのように見えていたマイケル・シーンだが、映画が進むに連れて本当のニクソンのように見えてくるのが面白かった。
ブッシュ元大統領の裏顔に迫ったマイケル・ムーアの手法とは異なり、デビット・フロストはひとりの友人としてニクソンと対峙する。

政治を掌る場面では最後まで落ちなかったニクソンが、フロストの執拗な問いかけに対してテレビカメラの前で本音を語りだすくだりは、当時、固唾をのんで見守っていたであろう4,500万人の視聴者の気持ちを我々に追体験させる。
当時の時代背景より、ニクソンとフロストという立場の異なるふたりの人間ドラマに終始している点がこの映画の特色で、NHKの「アクターズ・スタジオ・インタビュー」にも通じる、人間への興味喚起を促す映画に仕上がっている。

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