今回は、コンランショップで売られているイギリス産の紅茶「C&B カートライトアンドバトラー EARL GREY TEA BAGS」の空き缶を使ったスピーカー『CAN SPEAK』の試聴インプレッションについて書いてみたい。
このスピーカーの構造は、今までのスピーカーの常識を覆す作りとなっている。スピーカーユニットは、円筒の空洞に向かって取り付けられ、接合部はシリコンで埋められている。では、どこから音が出るのかというと、高域は直接コーン(スピーカー表面の膜)背面から、中低域は円筒の空気室からコーンを通して、前後左右4つの方向に広がるかたちで音が出る仕組みだ。
空き缶などの円筒形のエンクロージャーにスピーカーユニットを逆向きに取り付けて音を出す方法については、前回の記事に書いたとおりだ。
出てくる音は、通常のスピーカーとはあきらかに異なる。四角い木の箱で作られた従来のスピーカーは、レコーディングスタジオのモニターと同様に逆三角形型のリスニングポジションで聴くことを前提に作られているが、このアンビエント型スピーカーは、コンサートホールで生の演奏を聴いているかのごとく、楽器一つひとつの音の広がりに近い音場を作り出す性質を持っている。
もっとも本領を発揮するのは、クラシック音楽である。本来、すべてのアコースティック楽器は、周囲の空気を振動させて音を響かせるものだ。
レコーディングスタジオでは、楽器の音をマイクで拾ってマルチトラック収録し、それをミックスして人工的に音場を作りあげるのだが、指揮者や楽団によっては、こうした作業を嫌う場合もあり、より自然な音を録音するために、ワンポイントで一発録りする方法などがとられてきた。
『CAN SPEAK』の音は、コンサートホールなどで聴くアコースティック楽器に近い響きであり、ホーンのような残響が特徴である。
試しに、1930年代のスイングジャズを聴いてみると、音に広がりが出て立体的な音場が目の前に広がった。SP盤にモノラルの蓄音機が主流の時代に作られた音楽のため、ステレオのような左右の広がりはないが、前後の広がりを感じる録音がされており、こうした音源にこの『CAN SPEAK』の響きはうってつけなのだ。
個人的に大好きな、ダイヤルやサボイに録音された1940年代のチャーリー・パーカーを聴いてみると、まるで水を得た魚のように生き生きと『CAN SPEAK』が鳴り出した。これは、以前友人の家で聴かせてもらった78回転の蓄音機の音そのものである。
ビリー・ホリディのデッカやコロンビア時代の音源も、妙に生々しい音で鳴ることからも、この『CAN SPEAK』がSP盤の時代に録音された音源再生に適しているのは間違いないようだ。その反面、ロックやポップスなどの現代的な音源となると、独特な残響が耳についてしまい、奇妙に感じる人もいることだろう。
グレン・グールドの『ブラームス間奏曲集』(1960年)、スヴャトスラフ・リヒテルの『平均律クラヴィーア』(1970年)などのクラシックの愛聴盤もなかなか良い感じで鳴っている。
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