2009年4月29日水曜日

YAMAHA Dynamic Guitar No.10

YAMAHAのDynamic Guitar No.10(Open G)

YAMAHAのDynamic Guitarは、1960年代の鉄弦ギターである。スロッテッドヘッドのこのギターは、一見するとガットギターのように見えるが、ギター内部のブレイシング(力木の配置)が通常のガットギターとは異なり、張力の強いスチール弦に耐えられるように設計されている。ネックは12フレットでジョイントされており、使用木材やブレイシングも相まって、名前どおりのダイナミックなサウンドが魅力である。

このNo.10は、都内の楽器屋で950円で売られていた。見せてもらうと、ブリッジが剥がれかかっており、このままでは使えない状態なのでその値段なのだという。
「試奏されますか?」と聞かれたので「この値段なら、買います」と答えて、このNo.10を救出してきた。

持って帰ってギターを点検してみると、ペグはきれいに清掃され、弦も新品に交換されている。サドルは真鍮のものが使われており、これを削るのは骨が折れそうだ。まずは、ブリッジを一旦取り外して再接着を試みることにした。

ブリッジの中心にある丸いドットを取り外すと、マイナスネジが現れるので、CRCを吹いてからネジを緩めていく。
ネジは結構深いものが使われており、最後まで緩めきると、ボディ内部からカチッという音が聞こえた。内側にワッシャーが2枚仕込まれていたのだ。

ブリッジは張力でへの字型に変形しており、隙き間にはニカワの接着剤が見える。ドライヤーで接着剤を温めてから、金属のヘラをブリッジとボディの間に差し込み、ゆっくり剥がしていく。ブリッジは、意外と簡単に取り外すことができた。

次に、への字に変形したブリッジが水平になるよう、万力で固定してドライヤーで熱を加えながら数時間放置させる。だいぶ水平に戻ったところでブリッジに万遍なく木工用ボンドを塗って、ボディと貼り合わせる。この際、取り外したネジを再度取り付けてブリッジを固定させる。次にブリッジの外周全体をボンドでシールドする。(ボンドは乾くと半透明になるので、目立たなくなる。今回は木工用を利用したが、プロ用のタイトボンドがお薦め)

ボンドが半乾きの状態で弦を張ってみると、ネジの力と反対方向の力が加わるので、ブリッジ全体が均等の力で押されて、ボディとより密着することがわかった。
この状態で、3日間ほど放置。
ブリッジの変形はほぼ無くなり、ぴったり接着することができた。

次に、順反りのもうひとつの要因となっている「ネック起き」を補修するため、ギターをうつ伏せに寝かせて、ボディの上に20kgほどの重りを載せる。オーディオ用の真空管アンプを利用した。この状態で、ネックの付け根まわりにボンドを厚めに塗ってシールドする。
このまま、5日間ほど放置。

これで弦高はだいぶ低くなったが、まだ充分とはいえないので、ブリッジのサドル受け部分をダイヤモンドやすりで削っていく。
弦がブリッジに接触しないギリギリの高さまで削り、この状態でノーマルチューニングに合わせてみた。弦高は12フレットで6弦側が4.5mm程度。普通のギターとしてはまだ弾きづらいので、スライドギター専用にすることに決めた。オープンGなら、弦を弛めることができ張力も低減できて一石二鳥である。

仕上げは、ペグを取り外して左右交換。ヘッド表面にチューナーがくるようにすることで、寝かせて弾くことの多いスライドギター向けのセッティングに仕様変更した。
ボディ全体に入ったウェザーチェック模様も含め、ブルージーな雰囲気のスライド用ギターが完成した。

Dynamic Guitar No.10A の生音はコチラから聴けます。

2009年4月23日木曜日

Frost × Nixon


学生運動はなやかしき1970年代前半、当時のアメリカ大統領といえば、ニクソン。日本の総理大臣と言えば、佐藤栄作だった。ウォータゲート事件のことは、連日連夜テレビで報道され、熾烈だった学生運動と合わせて、何かが起りそうな予感を当時まだ小学生だった子どもながらに肌で感じていた。
しかし、間もなく起ったオイルショックの影響もあり、加速するインフレ危機のほうが社会にとっては切実で、こうした「闘争」もこの問題で一旦流されてしまったかのようだった。
この闘争が一種の流行でしかなく、経済的、物質的な危機の方が遥かに大きな問題であることを、誰が語るのでもなく時代の空気が如実に物語っていたと思う。

フロストというトークショーの司会者が、かつての大統領とルールなしのディベートを行う。
この、討論エンターティンメントのおそらくルーツとなった空前の番組企画の裏話が、克明に紐解かれていく。
テレビというメディアの怖さ、すなわち映像を通して人間の右脳に訴えかける情報量が、圧倒的に文字情報を超えてしまうという現実を、これほどまで実感させられたことは当時なかったに違いない。

久方ぶりに社会派の映画を観た。最初はニクソンよりもレーガンのように見えていたマイケル・シーンだが、映画が進むに連れて本当のニクソンのように見えてくるのが面白かった。
ブッシュ元大統領の裏顔に迫ったマイケル・ムーアの手法とは異なり、デビット・フロストはひとりの友人としてニクソンと対峙する。

政治を掌る場面では最後まで落ちなかったニクソンが、フロストの執拗な問いかけに対してテレビカメラの前で本音を語りだすくだりは、当時、固唾をのんで見守っていたであろう4,500万人の視聴者の気持ちを我々に追体験させる。
当時の時代背景より、ニクソンとフロストという立場の異なるふたりの人間ドラマに終始している点がこの映画の特色で、NHKの「アクターズ・スタジオ・インタビュー」にも通じる、人間への興味喚起を促す映画に仕上がっている。

2009年4月9日木曜日

Gibson L-4(1917年製)


本家本元、Gibson のアーチトップ L-4 1917年製である。このギターをはじめて目にしたのは、半年くらい前になろうか。その独特な佇まいが脳裏に焼きついていた。リペア歴があるためか、価格は通常の同モデルより安めの設定。それでも 298,000円と立派な値段である。

3年近く前に、Rホールの L-4 を2本所有していた。共に、1930年代のモデルだったが、外観はサンバーストで見た目も渋く、よく鳴るギターだった。1本は友人に譲り、もう1本はオークションで手放してしまい、少し後悔していた。そんな時、この L-4が大幅に値下げされていることを知った。決算期ということもあり、目玉商品のひとつにしたのだろう。

こうなるともう、いても立ってもいられない。2週間ほど悩みながら、このギターのことを忘れようとした。それでも、どうしても脳裏から離れないので、覚悟を決めて取り扱い店に電話してみると、ギターはまだ残っているという。ホッとした反面、すこし重荷を感じた。

ギターは、実物を弾いて確かめてから買うべきである。高額なギターともなれば、余計にそうだ。以前、程度の良い Gibson L-7 をオークションで落札した際に、きっと長期間弾かれずに保存されていたのだろう、まったく鳴らないギターをつかんでしまった経験がある。

「実際に弾いてみて気に入らなかったなら、どこかに1泊して旅でもしてこよう」そう思ったら、気分がすこし楽になった。

仕事を終えた夕方、新宿から急行電車でショップのある本厚木に向かう途中、携帯からホテルを予約した。これでギターがNGだったとしても気をまぎらすことができる。

本厚木駅に到着して、南口から徒歩3分の楽器屋を目指す。本厚木は北口が栄えている街で、南口のほうはすこし寂びれている。ずいぶん遠くに来てしまった感覚にひたりながら、国道沿いにあるギターショップの扉を開けた。

電話で応対していただいたスタッフの方に声をかけると、早速 L-4のある場所に案内してくれた。アコースティックギターの一群のなかに、HOLDの札がついたこの L-4が置いてあった。

別室でチューニングされた L-4を手にとってみると、木は乾燥していて非常に軽く、ネックの反りもほとんど無い。トップには3カ所クラックを補修した痕が残っているが、丁寧にリペアされているらしく強度も問題なさそうである。

一番驚いたのは、この L-4が12フレットジョイントだったこと。30年代の L-4が14フレットジョイントだったので、この L-4もてっきり同じと思っていたのだ。

いざ、音を出してみると、その鳴りっぷりは尋常ではなかった。音が太くて音量が大きく、しかもただ大きく鳴るだけではなく、音色には深みがあって、個体差(木の材質と共鳴状態)によっておこる自然な残響感が何ともいえず心地良い。

正直、1世紀近く前のギターということで、木は乾燥しきって瑞々しい音は期待できないだろうと思っていた。19世紀のヨーロッパ製ギターの流れを汲む、オーバルホールとインレイのデザインや、クラシカルな木製のサドル一体型ブリッジなど、その高貴な佇まいからは、まったく想像できない鳴りっぷりである。

ネックは太めだが、三角型に丁寧に削られており、握った感じも手によく馴染んで、演奏上の負担はまったくない。フレットも新しく打ち直されており、音がビビる箇所も見あたらない。鳴りもプレイヤビリティーも申し分の無い、素晴らしいギターだ。

アーチトップのボディと、約1世紀という長い時間を経て醸し出される独特の色合いは、バイオリンなどの古楽器にも通じる風格を持っていて、腕の良い職人を持ってしてでも再現できるような雰囲気ではない。存在そのものが歴史になっているのである。

1917年といえば、大正6年にあたる年で、人間にしたら92歳。奇しくも、昨年の4月に亡くなった父と同じ歳だ。これもきっと何かの縁なのだ...。高い買い物をする際の “後ろめたさ” を今回感じなかったのは、そんな理由もあるのだろう。一生物の楽器にするため、普段は使わない長期のクレジットを利用した。(お金に余裕がないというのが本当のところなのだが...)

L-4は、当時のおそらくオリジナルと思われるハードケースに入れてもらい、新品の弦を2セットサービスしていただいた。ケースまではメンテナンスされてないので、当然ながらボロボロである。歴代のオーナーたちが、コレクションではなくギターを大事に弾き込んできたことをこのケースが物語っていた。

L-4 の音はコチラで聴けます。

2009年4月6日月曜日

Robert Johnson L-1 Pre-War Style

先日入手した Valley Arts Guitar 製の L-1 だが、ヘッドロゴがオリジナルではなく、現行型のスクリプトロゴだったのが気になっていたので、思い切って修正を行った。
(The Gibson スクリプトロゴとクラウンマークはオリジナルで製作)


ペグは白いクルーソンタイプ(GOTO製)と交換済み。


















塗装剥離、凹部分のパテ埋め、ラッカー塗装、ロゴ貼付け、ウレタン塗装と段階を踏んで、1920年代の雰囲気に近い Robert Johnson Signature L-1 Pre-War Style ギターが完成した。


2009年4月3日金曜日

Pioneer PE-101A セッティング


Pioneer のフルレンジ・スピーカーが届いて3週間ほど経つが、スピーカースタンドが無かったため、本格的なセッティングができない状態が続いていた。DIYショップで木材を調達して自作しようとも思ったが、できれば鉄製スタンドで揃えたい。

ぴったりなサイズのスタンドを探していたところ、サウンドマジックのGM24というスタンドがジャストサイズで、セッティング後も、隣の LS3/5a とほぼ同じ高さになることがわかったので、さっそくネット通販で注文した。
(このスタンド、2本で15,000円以下とローコストでありながら、造りはしっかりしている優れものだ。PE-101A と LE-101A を組み合せて使っている方にはお薦め!)


スピーカーのセッティングが終わったので、それまでつないでいた AURA VA-150 から 300B真空管アンプである M100S Plus に接続してみると、その音の違いに驚いた。
VA-150 では十分に出ていなかった高域が、フワ〜ッと余韻すら感じる精緻な音となって出てくるではないか。あらためて、プッシュプルの威力を思い知らされた。


その後、USB 端子付きの D/Aコンバーターを調達したので、同軸から DAC 経由で MS100S Plus につないでみた。
CDプレーヤーから VA-150 に直結していた時とは、空気感が明らかに変わり、音に艶が加わった。
翌日、Mac と DAC を USBケーブルでつないで、iTunes を再生してみた。デジタル臭さが薄れて、瑞々しい響きである。喩えるなら「絵画をガラス張りの額に入れたとき」のような感覚とでも言おうか。

Aura VA-150 + Rogers LS3/5a の音と比較試聴してみたが、さすがにダイナミックレンジでは劣るものの、定位の良さがそれを十分に補っており、質感ではむしろこちらのほうが上では?と思わせる鳴りっぷりである。

DACの効果もあるとは思うが、やはりプッシュプルの真空管がもたらす効果は絶大だ。スピーカーユニット全体が揉みほぐされたかのような “しなやかさ” で、その性能を最大限に引き出してくれる。

トランジスタアンプでは、小編成のアコースティック系や女性ボーカルなど、ソースを選んでいた PE-101A だが、ロックからジャズ、R&B までオールラウンドでこなせるスピーカーに生まれ変わった。あらためて、フルレンジと真空管アンプとの相性の良さを痛感した。目からウロコが落ちた思いである。