2018年6月8日金曜日

変わりゆく街並み 神宮前の旧鎌倉街道

新国立競技場の完成予定となる、2019年11月末に合わせるように、周辺の街並みも少しずつ変わりつつある。なかでも、もっとも劇的な変貌を遂げようとしているのが、渋谷区神宮前2丁目にある旧鎌倉街道周辺だ。

外苑西通りにある神宮前3丁目交差点を外苑前方面へ入り、熊野神社の手前を左折すると、この旧鎌倉街道はある。道は途中から勢揃坂(せいぞろいざか)と呼ばれる下り坂になっており、この辺りから新国立競技場の工事風景が視界に入ってくる。

以前は、右側に外苑ハウスというマンションが建っていたのだが、現在は取り壊され、2020年の竣工を目指して大規模な工事が進められている。地上22階建て/延べ床面積6万㎡/高さ86mの高層マンションが建つ予定という。

この勢揃坂の途中に、臨済宗の龍巌寺(りゅうがんじ)という古いお寺がある。かつてこの周辺には松の名木『円座の松』があり、ここは江戸時代に葛飾北斎の浮世絵「青山円座松」に描かれ、『江戸名所図会』にも取り上げられる名所だったそうだ。

これが北斎の「青山円座松」。赤丸で囲ってある切妻屋根の建物が、当時の龍巌寺。

富士山は西側に位置することを考えると、手前にある円座の松は、現在工事中の外苑ハウスや国学院高校、都営神宮前2丁目アパートなどがある一帯ではないかと推測される。円座の松と龍巌寺の間に見える坂が勢揃坂、つまり旧鎌倉街道である。手前で宴会を繰り広げている人々がいるのは、紀州徳川家の上屋敷(現在の赤坂御用地)辺りになろうか。
現在の龍巌寺は低い石塀で区切られ、その右側にある側道は、私道になっていて、一度も足を踏み入れたことがなかったのだが、好奇心に負けて自分が守衛になったつもりで中に入ってみた。(※関係者以外、立入禁止の銘板あり)

ゆるい坂を登っていくと、右側には民家が建ち並んでおり、今も人が住んでいるようだ。その奥にはやや広めの駐車場があり、その手前には門が閉まるようなレールが敷いてあった。部外者による違法駐車を阻む目的に設えたのだろうか。

駐車場の広場にたどり着くと、そこは袋小路になっていた。霞ヶ丘団地の交差点へと抜けられるのではないかという期待はここで途絶えた。

駐車場から南側を臨むと、龍巌寺のお墓の向こう側に、建築家会館本館の北側立面が見えた。そのまま左側に目を向けると、早朝の木漏れ日が差し込む、龍巌寺の厳かで美しい伽藍を拝むことができた。

鎌倉仏教の一部である臨済宗の、座禅によって悟りを得るという禁欲的な厳しさが、その建物や周囲の木々から音もなく伝わってくるような気がした。



旧鎌倉街道へと戻って、工事が進む新国立競技場方面へと勢揃坂を下っていく。住宅を3軒はさんだ先には、浄土真宗系の慈光寺があり、そこを通り過ぎると、工事で行き止まって霞ヶ丘団地交差点へと抜ける小道に出る。

道が2倍ほど広くなったこの通りは、2020年東京オリンピックによる新国立競技場の周辺で、もっとも劇的な変貌を遂げるであろう地域だ。

かつて外苑ハウスのあった敷地には、噂によるとスタジアム通りへとつながる広場ができるという話である。霞ヶ丘団地があった場所も、整備されて自然豊かな憩いの場となるのだろうか。

神宮前地区では、もっともハイソな集合住宅の一つになるだろう外苑ハウスだが、その裏通りには、下町情緒を感じさせる雑居ビルが軒をつらねている。数年後には、この一帯は観光客やニューファミリーが行き交う、新たな商業地区として生まれ変わるのかもしれない。渋谷区、新宿区、港区と3区がまたがる不思議な土地でもあり、新たに整備される霞ヶ丘団地の跡地がどう地域に活かされていくのか、今後に注目だ。

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