わたしは、Gibson のヴィンテージスモールを3本持っていた。1929年製と1931年製のL-1、そして1930年代のL-00の3本である。このうち、1931年製のL-1は、13.5インチから14.75インチにサイズアップし、フレットは12フレットジョイントのままという過渡期のモデルで、しかもロゴは The Gibson から Gibson へと移り変わっている(本来ならThe Gibson)という、非常に珍しい1本だった。
このL-1は、左の写真を見れば分かるように、トップが素人の手によってサンバースト塗装された状態で、サイドやバックにも割れを補修した痕がはっきるとわかるという、お世辞にもきれいとはいえない状態だった。
入手したのは、今から3年半ほど前で、2002年製のカスタムショップ製のL-1と交換で入手したものだ。とにかく、外観がこの状態なので、プロジェクト(修理)用に入手したのだが、手元に置いてみるとこれはこれで味があるのと音も気に入ったので、そのまま手を付けずに時間が経ってしまっていたといういわく付きの代物だ。
前のオーナーによれば、このギターはL-0もしくはL-1の1931年製とのことだったが、もしもL-0ならトップはマホガニーのはずである。このギターのトップは木目から判断してスプルースで、1932年に14フレットジョイントへと変わる直前のL-1にほぼ間違いないだろうことは手元にきてからわかった。
トップの塗装を剥いでいけば、すべては判明することで、剥いだ塗装の上からタンポ塗りでオリジナルと同じステインシェイデッド仕上げにする予定だったのだが、夏の旅行費用を捻出するために、止むを得ずオークションに出品したところ、その翌日には希望額で落札されていた。
落札者のEさんとは、取引連絡の段階で意気投合し、少しでもサービスしたい気持ちもあったのでギターは直接届けることに。
この L-1 だが、左の写真であきらかなように、gibson のスクリプトロゴが半分消えかかっている。上部の山がV字にカットされ、トラスロッドが入っていることからも、Kalamazoo などの廉価品ではなく正真正銘の Gibson プリウォーに間違いない。
ペグは最近のもの(恐らくGoto製)に交換されているので、オープンバックの復刻品に交換すれば、さらにヴィンテージ感が増しそうだ。これから下の写真は、Eさん自らがリペアしている過程の写真である。修理の一部始終をメールと写真で報告していただいたのだが、御本人の許可を得て、その一部をすこしだけ紹介したいと思う。
右の写真は、上塗りされたサンバースト塗装を剥がし終えたところ。タンポ染めされたオリジナルのステインの地が出てきている。そして、下の写真がすべての塗装をほぼ剥がし終えた状態。ステインは、染料であり木の奥まで染み込んでいるため、完全に落とすことはできない。
写真で見た感じでは、かなり濃い目のウォールナットで、これはロバート・ジョンソンが使っていた L-1 に近い色ではないかと思われる。
Eさんとも話したのだが、プリウォーの Gibson の音が素晴らしいのは、木が乾燥していることもあるのだが、もっとも大きな理由は、現在では考えられないほどの良い材料をふんだんに使って作られている点だろう。これは、本物を弾いた者にしかわからない真実であると確信している。
木の乾燥だけであれば、再塗装されたヴィンテージの音は、高額で売られているカスタムメイドの新品の L-1 と同等かそれに近い音になるはずだ。
さて、今回のレストアされた L-1 はどうだろうか? ちなみに今回の L-1 だが、修復されたのはトップだけでなく、トップ裏のブレーシングから内部のライニングにいたるまで、また、指板の減りをハカランダで埋めたり、トップ浮きをフラットに戻したりと、フルレストアといえるほどの大がかりなものだ。
まず、これほどのレストアを請け負ってくれる業者はいないだろう。あまりにリスキーであり、失敗した場合の損害を考えるとやりたがらないのは当然である。仮にいたとしても、相当な金額となってしまうのは間違いない。
左の写真は、ほぼフルレストアが済んだ状態の L-1 である。トップの塗装は、オリジナルと同じようにステインシェイデッド仕上げされており、バックはオリジナルよりも良いヴィンテージのジャマイカン・マホガニーという良材を極力薄くスライスしたものに交換されている。
さて、フルレストアされた L-1 の雄姿を見ると、まるでカスタムメイドの復刻品のようなのだが、音を出してみて驚嘆した。どんなに高額なカスタムメイドでも、まったく比較にならないほどのボリュームである。しかもなんともブルージーで良い音なのだ。見た目はもちろんだが、音の方もお譲りする前の状態をはるかに超えた仕上がりで感動した。取材やブログ掲載にも快くOKしていただいたEさんの素晴らしい仕事ぶりに対して、心からの賛辞をお送りしたい。もっとも喜んでいるのは、このL-1自身であろう。そのGibson愛よあっぱれ、そしてL-1プリウォーよ万歳!
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