
スコセッシといえば、デ・ニーロと組んで撮った1976年の「タクシー・ドライバー」があまりにも有名だが、監督デビュー前に、ライブ・ドキュメンタリーの傑作「ウッドストック/愛と平和と音楽の三日間」の編集を手がけている事はあまり知られていない。ロック界とハリウッドという、エンターティンメントの最高峰同士が組んだ映画という点も興味をそそられた。
ライブ・ドキュメンタリーの一番むずかしい点は、おそらく映画としての軸をどこにもってくるかという点に尽きるだろう。
「ウッドストック」では、フラワームーブメントを象徴するイベントだったこともあり、アーティストのみならずオーディエンスも主役に置くことで時代の空気を写しとろうとした。
「バングラディシュのコンサート」では、ロック界初の大規模なチャリティ・コンサートということ自体がコンセプトだった。
本作には、還暦を過ぎたロックバンドということ以外、軸になりうるテーマはない。
そこで、スコセッシは自らをストーンズ(とりわけミック)と対立させるという手段を用いて、単なるドキュメント映画に終わらせない演出を加えている。
ぎりぎりまでセットリストが決まらないという話も、舞台セットのデザインで意見が食い違うというエピソードも、すべて演出なのかもしれない。一体どうなることやら...そんなスコセッシ側の不安を軸に映画は進んでいくが、ライブが始まってしまえば、もうストーンズの独壇場である。
映画の中でもっとも興味深かったのは、インタビュアーが本音の質問をキースにぶつけるところ。
「ロニーに、キースと自分ではどっちが上手いと思う?と聞いたら『オレに決まってるだろ』って言ってました。あなたはどうですか?」
こう切り出されて、キースはこう答える。
「ふたりとも下手だけど、オレたち二人がそろえば最強なんだ」
途中、ゲストにバディ・ガイが登場して、一瞬食われそうにもなるが、ステージを去る際、キースが使っていたギターをバディにプレゼントするあたり、格の違いを見せつける。
ストーンズが、並外れたスーパースターであることを、あらためて実感させるシーンである。
終始、タイトなリズムを刻み続けるチャーリー・ワッツの、いぶし銀の魅力が印象的だった。
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